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救助を待つのでは間に合わない。
あなたは医者ですと、喜多見チーフは言う。
尚は覚悟を決めたようだった。
「……天沼先生の救助は後回しにしてください。今すぐオペが必要です」
天沼幹事長はそこで尚に食ってかかる。時間が惜しいこのタイミングで。
尚は覚悟を決めた。凉香さんもこれだけ自分に出来ることを精一杯やっていた。なのに、私はいったい何をしていたんだろう。私にも何か出来ることは…。
ポケットに手を入れて、その指先がスマホに触れる。
私に出来ること。私の武器。それはやっぱりこれだ。
「げほっ、天沼先生、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、テレビ局の報道局に勤めておりますAと申します」
「なんだいきなり！」
尚が私のことを見る。目がやめろと言っているのはわかったけれど、私はそれを無視した。尚は妊婦さんの方を急いでと視線だけで訴えると、渋々準備を進め始める。
「私MERの取材をしておりまして。天沼先生が一緒になって患者さんを助けてくださっているところをテレビで取り上げたら、きっと天沼先生の評判は今よりももっとよくなると思うんです。だからカメラを回させていただいてもよろしいでしょうか？」
「そんなうまい話があるか」
「あくまでMERの密着として出しますので。話題性も高い特集なので、視聴率も悪くありません。お金はかからないのに、プロモーションとしてもばっちりです！」
「ふんっ…勝手にしろ！」
天沼幹事長の許可が得られたので、私は持っていたスマホで動画撮影を開始する。編集で使いやすいよう、天沼幹事長を映すのは最低限。でもこのカメラの存在が、きっと抑止力になってくれるはずだ。
妊婦さんのオペが始まった。両手を使う尚は、自分で酸素ボンベが持てない。ひどく咳き込む尚に、私は自分の口元に当てていた酸素ボンベを当てる。
「っ、私はいいです」
「オペが出来るのは、この患者さんを救えるのは音羽先生しかいないでしょう？」
「でも、Aが持たない…！」
「…私、昔から体力には自信があるの。言ったでしょ？」
いつものように笑ってみせると、尚が数度瞬きをしてみせた。
昔から体力はある方だったけれど、この仕事で揉まれているうちにさらに鍛えられた。尚を安心させるためにも、だから大丈夫だと言い張るしかなかったのだ。
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作者名：みずたま | 作成日時：2021年9月13日 10時
