You are my home #1【音羽尚】 (ページ17)

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「こちらMERの音羽です。高輪先生、聞こえますか」
「…はい、高輪です」
「あと20分ほどで弦巻先生がそちらに心臓を届けます」

カメラには高輪先生の声は入らない。けれど私はその声を聞いているから、どういう会話が行われているのかわかる。もうすでに胸を閉じているから無理だということも。尚は食い下がったけれど、高輪先生も折れない。
担当医として当たり前の感情だ。どれだけ尚が大丈夫だと言っても、そこに大きな信頼関係はない。信じられないというのも仕方のないことだ。

「…みんなが必死に繋いできたんです。今度はあなたが繋ぐ番だろ！」
「調子のいいこと言わないでよ！」

スマホが震える。移植ネットワークへ向かった同僚からだ。向こうも当然祈るしかない状態で、奇跡を信じて祈っているところだと。
確証がなくても、今は尚のことを信じて欲しい。でもいくらインカムがあるからと言ってここで私が口を挟むわけにもいかなくて、何も出来ない無力さが悔しかった。
握りしめた拳で自分の太ももを叩いていると、その手首が掴まれた。カメラに映らないその画角で、尚が私のことを止めるためにつかんでいるのだった。

「音羽先生…」

少し俯いた尚はそれ以上は喋らない。万事休すの状態。
喜多見チーフの声が響いたのはその時だった。

「…音羽先生は信頼できる医者です。心臓は間違いなく移植適合基準内にあります。それに1番助けたいと思っているのは高輪先生ですよね。…大丈夫、千晶ならやれる」

絶対的な安心感を抱かせる、喜多見チーフからの言葉。流れが変わったのはその瞬間だった。
覚悟を決めた高輪先生の声をインカム越しに聞いて、安堵する。

「…A、オペの準備しなきゃ。ごめん」
「ううん、さっきはありがとう」

尚とはそこで別れると、私はトンネルの出口が撮れるように再び本部の前へ戻る。
徳丸くんたちよりも先にカメラマンが先に病院に着いたことを知らせるメッセージが届いていた。
たくさんの人たちが命を繋ごうと必死になっている。泣いてしまいそうになるそんな気持ちを抑え込みながら、私は小山先生の姿が見えることを信じてそこで待っていた。