涙 ページ9
「でもまあ 槍届けてくれてありがとうね
正直逃げたと思っていたから
見くびってたよ ごめん
あの時 お前が槍を投げてくれてなかったら死んでた
助けてくれてありがとう」
パッと顔を上げる
目を見開いたままAのことを見つめるが
Aは気にせず鎹烏と話をしていた
お館様への報告だろうか
渦巻いたものがほどけていく
足りないものが埋まるように
氷が解けていくように
包まれ 満たされ 暖かくなっていく
何なんだ
お前は俺を嫌いなのかどっちなんだ
さんざん言った後にありがとうだなんて
その言葉が口から出ることはなかった
唇が震え 視界がぼやけていく
――――嗚呼 俺はうれしいのか
獪岳は感謝されたことがなかった
鬼殺隊に入れば誰かを助ける場面は必然的にやってくる
けれど獪岳は鬼の頸を切った後すぐにその場を去ってしまうし
そうでなかったとしても 死への恐怖に獪岳の人相の悪さも相まって
声をかける者などいなかった
他の場面でも 自ら誰かを助けに行くなんて
やらないどころとか 反吐が出ると感じるような男なので
声に出して感謝されることなど 生まれて初めての事だった
今日は 生まれて初めてが多いなと獪岳は思う
嬉しい
感謝をされた
俺がいて助かったと そう認められた
涙があふれる
今までまともに泣いたことなどない獪岳は
子供よりも下手くそに嗚咽を吐きながら
とめどなくあふれる涙をぬぐう事もせずに泣き続けるのだった
その姿を見た鎹烏への報告―――お館様への報告を終えたAは
全くしょうがないとでも言いたげな顔で小さく息をつくと
獪岳の事を正面から抱きしめた
「泣くの下手か お前は
しょうがない奴だな まったく…」
と愚痴をこぼしながら
優しい笑みを浮かべて
獪岳の背中を子供をあやすように叩いてやるのだった
獪岳もAの首元に顔を埋め
Aのことを抱きしめたまま
タガが外れたように
嗚咽を下手くそに飲み込みながら
縋るように泣き続けるのであった
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ますだかおり(プロフ) - いいねいいね！更新頑張ってね！ (2020年1月14日 17時) (
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作者名：泪 | 作成日時：2019年11月27日 21時
