忘れられない２ (ページ38)

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73[side MASAKI] ページ38

ずーっと、大野さんのお店に、いりびたり。
Aちゃんが留守の間に、ねこちゃんとすっげ仲良くなった。
厨房の奥のアトリエの方には、ねこちゃんが住んでる納戸みたいなのがあって、
Aちゃんがふらーって入っていくのは、そのせいだった。
べつにマスターといちゃいちゃするためじゃなかったんだ。

だって、おれが豆柴のねこちゃんと思いっきりあそんでる間、マスターはタバコ吸って、口を丸くあけて、自分のほっぺをぽんぽん、と叩く。
そしたら漫画みたいなまーるい煙が出てくるから、それを見上げて雲を眺めたりしてるだけ。
確かに癒される。大野さん大好きってAちゃんが言ったのも心から頷ける。

なのに俺。ため息しか出てこない。
ほんと、ため息ばっかり。
周りがうんざりしてんのが、わかる。
お昼ごはんの時、愚痴。

「Aちゃん南国でイケメンにナンパされて浮かれて帰ってきたらどうしよう」
「もう相葉ちゃんは他の女とラブラブだと思ってるだろうからね」
大野さんが酷いことを言う。

「うわあ……きっつー」
「南国で浮かれて浮かれた男と海じゃなくてベッドにダイブしてたりね」
ニノがふん、って笑いながら言う。
あれ？涙でてきそう。

「海じゃなくてシーツの波の中で泳ぐA」
「翔ちゃん詩人」
「You Know？布の波の上、君の海を泳ぐ俺、ole！」
翔ちゃんが即興でリリックみたいなの言ってる。

「オ－レ！いいぞ！」
ニノがはしゃいでる。
「やめて……」
「うん。へんな想像すんなよ。帰ってきたらどんな顔すりゃいいんだよ」
潤くんがニヤニヤしながらいう。

「ま、って言っても、あと半月ほどの辛抱だけど」
「……何が？」
潤くんが俺をちらっと見下ろして言う。

「A。栄転だもん。次店長」

がたん！
思わず立ち上がって、椅子が大きな音を立ててひっくり返る。
「あ、椅子が」
大野さんが椅子を戻しに近づく。

「なにそれ、しらない」
「アレ？知らなかったの？」
ニノが、あららーって顔して言う。

「しらない……」
「自分で言うから言わないでって言ってたよな」
翔ちゃんが、言う。

「マジ？俺みんな知ってると思ってたわ、Aごめん」
空を見上げて謝ってる、潤くん。

「なんで俺だけ知らないの？」
「友だちじゃないからじゃないの」
ニノがコーヒーをすすりながら言う。

「友だちだもん……」
「じゃあ言ってないの、変だよね」
翔ちゃんが俺を憐れみの目で見た。