忘れられない２ (ページ36)

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71[side MASAKI] ページ36

あの日は、仮想デートなんじゃなくて。
メロンソーダみたいなネイルも、もこもこブーツも、あのいい香りも全部。
頭の先からつま先まで、俺のためだけに存在してたのに。

フラれるのわかってて告白できないって、水槽の向こうの世界に行きたいって
マンボウの水槽の前でつい抱き寄せたときも。

ずっと、俺のこと好きだったの？
どんな想いであっちにいきたいって言った？
抱き寄せた俺を振り払ったときの笑顔を。

愛おしすぎて、息ができない。

「相葉さん？」
「あ、ごめん。イルカショー行く？」
「イルカショーって外ですよね、寒くないですか。でもちょっと疲れたから座りたいかも」
「……室内からも見れる場所あるみたいだし、ちょっと座る？」

ねえ、水族館って言ったよね、俺。
どうしてそんなとんがったブーツはいてんの？
ひらひらのスカートも可愛いけど、動きやすさから行くとＮＧだよね。
海の近くってわかってんのに、その巻き髪も風で崩される。
海なんか、誘えないよ。カシミヤとラビットファーのコートも汚れそうだし。

頻繁に化粧直しに行きたそうにするから、気を使ってトイレが近いふりしたりやたら気を使う。
お昼ご飯を適当に済まそうかと思ったら、ちょっと嫌そうにしたから、さっさと水族館を出た。

マンボウの水槽には近づきたくなかったから、丁度よかった。

近くのイタリアンで遅い昼食を食べて、この後どうする？って聞いたら、
どこでもいいって言うから。
この近くにＮＹから新しく入ってきたセレクトショップがあるから、リサーチ行きたかったんだよねって言ってみる。

「仕事休みの日まで仕事のこと考えてるんですか？やだあ」
って、笑った。
笑えない。休みの日にしかできない仕事の一環って山ほどあるのに。

「じゃあ観覧車……」
言いかけて、止める。
Aちゃんがもう二度と乗らないって、言った。
俺も、あの観覧車には二度と乗らない。

そのとき、携帯が、震える。
見たらショップから。断って、電話にでる。
「あの裏の通路に置いてある什器、次の火曜日の消防の立ち入り検査でひっかかるとかビルメンテナンスさんが言ってて」
「……今から、行く」

逃げる口実をみつけた。

「ごめん。店でトラブルがあって。今から行かなきゃ」
近くの駅まで行って、別れる。

すっごい不服そうな顔。

俺だって、死ぬほど後悔してるよ。
Aちゃんじゃなきゃダメって、今頃ハッキリ気付いたんだから。