忘れられない２ (ページ18)

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53[side MASAKI] ページ18

柔らかくて、いい匂い。
俺の顔を見て、安心したように力を抜いた。
部下の異変も気付けないなんて！
過保護なら体調にも気づいてあげてよ！

気付いたら、怒鳴ってた。
医務室に運んでる途中で、Aちゃんは意識朦朧として、でも、ありがとうごめんね、って小さい声で。

事務所に声かけて、医務室のカチカチのベッドに寝かせて、乱れた髪をすきながら触れた額は熱くて。
苦しそうな吐息に、胸がぎゅーって。なった。

ふわふわの髪の毛もふわふわのほっぺもふわふわの声も、何て言えばいいのかな、実体があったんだって感じ。

体も心も体温も呼吸も鼓動もちゃんとある、
この世でたった一人の女の子なんだって気づいて。

なんだか当たり前のことにびっくりしながら医務室から戻ったら、潤くんが、言った。
『うちの花邑を助けてくださってありがとうございました。ご迷惑おかけしました』

そんな大袈裟なって思ったけど。
悔しそうなその顔にもしかしたらって、思っちゃったんだよね。
あれ？潤くんって、Aちゃんのこと。

店長になったとき、あいつを引き抜いてきたってポロっと言ってたことを思い出す。

特別な思いで見てるんだ。
けど、店長とチーフってさぁ、
それって、ダメなやつじゃん。
しかも、潤くんそういうの一番嫌うようなタイプなのに。
公私混同っていうの？

次の日、Aちゃんを抱っこした感触が妙に忘れられないし、潤くんは妙に不機嫌だし？

もやもやして、ぼーっとしてて、うっかり段ボールで指をぱっくり切っちゃったんだ。

あわわ！商品に血がついちゃう！
慌ててガムテープで傷口を貼り付けようとしたら、大丈夫？待って、これ！って声がして、目の前に絆創膏が差し出された。

Aちゃん？って、思ったんだよね。
Aちゃんかと思ったの。

「あ、ありがとう！助かるー」
「手出してください、貼ってあげる、ああ、痛そう……強めに巻いておきますね」
「うん、ごめんね？」
「昨日、花邑さん抱きあげてかっこよかったのにー。今日はダメダメな感じですか？」
「俺は基本ダメダメなんだよねー」
「ダメダメなんですか？……はい、できた」

にっこり笑って立ち上がる。
「ありがとう！」
「いいえ！もう切っちゃダメですよー」

可愛いじゃん。
Aちゃんみたいで可愛いじゃん。

……Aちゃんみたいだから可愛いって思ったことに気づくのは、
それからずっと、ずっと後。