忘れられない２ (ページ15)

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「おまちどおさま」
大野さんが、目の前に美味しそうなランチを置いてくれる。

初めてここに来たときとおなじ、フワフワオムレツと、白身魚のムニエル。
今日は、たっぷりキノコのソース。
「おいしそう……」

「おまたせー」
雅紀くんが来て、私の横にストンと座る。

「お疲れさま」
「お客さんからチョコもらったよー」
「なに？チョコの数を比べるならまけねーぞ！」
櫻井さんが中腰。

「わたしはAの本命チョコ一個だけ」
「おいらもAの本命チョコ一個」
「俺Aちゃんからまだ本命チョコ貰ってなーい！」
雅紀くんがむー！ってむくれる。

ほんとに本命チョコだよ？なんてね。
「はい、これどうぞ！」
「やったー！一番嬉しいー！」

一番嬉しいのは、今から貰えるよ、きっと。
皆でわいわい言いながらご飯を食べて、たくさん笑って、解散した。

今まで私が一番近くで雅紀くんの横顔をみてた。
今度は、別の子がこの場所に、座る。
私が居なくなってもきっと。

仕事をノロノロ終わらせて、帰り支度。
あしたから暫く休むから、引き継ぎをノートに書く。

お取り置き三点有ります。
横山さま、村上さま、丸山さま。
渋谷店から客注分納品あります。
客注ノート確認してください。
大倉さま(代済)
お直しあがってます。
安田さま、錦戸さま

ノートを書いてたら、ゆーちゃんが雅紀くんに声を掛けてるのを、見る。
相葉さん、ちょっといいですか？
なに？ちょっと待ってて？片付けてるからー
待ってます。

早く、帰ろう。
小走りで、従業員出入口から出たら、
店の前に、大野さんがいた。
「ねこに、会いたいかなって思って」
「なんでわかったんですかー？」

尻尾を振って私の元にタタタッて走ってくる。
「ミルクティーのむ？」
「うん……」

お店に入ったら、体の力が抜けた。
「大野さん、私、ちゃんと笑えてます？」
「あんまり」
「練習する」
「うん。……特異体質、出てるよ」
「またですか、参ったなー」
「……」
「異動、決まってよかった……」
「……」
「あの姿、毎日見たら、いくら心臓が丈夫でもね、危ないですよねー？」
「我慢しなくていい」
「……」
「我慢、するな、ばか」

うう、って、声が漏れる。
「……好きだったの」
「知ってたよ」
「大好きだった」
「そっか」
「幸せ、祈れないから、もう側にいれない」
「……自分の不幸を祈っちゃダメだよ……」

ロイヤルミルクティが、甘さで涙腺を緩める。
湯気がふわって、上がっていく。