13.メイド ページ13
「携帯の充電がありません」
「じゃ、この電話使いなさいよ」
目の前に、誰のものでもないような、携帯。
「これは？」
「さっきAがかけてきた電話」
二宮が言う。
「山風さんの？」
「そう。ここに届く荷物なんかは、山風智、山風翔、山風雅紀、二宮和也、山風・ジェイ、もしくは山風潤で届いて……」
櫻井さんが言ったら、最後に名前を呼ばれた二人が慌てて言う。
「え？そうなの？わたしだけ本名？」
「おれのＪってなんだよ」
「電話借りますね」
電話番号をタップしたら、素早く番号を背後から確認してる気配。
櫻井翔、ぬかりないタイプ。この人手ごわい。
ＴＲＲＲＲＲ……かちゃ！
「あ、もしもし？お母さん？私」
「こら！A！あんたなんで電話でえへんの！お母さん、あんた死んだんちゃうかと思って心配で心配で」
「親切な人に拾われたから大丈夫」
「拾われたっ？」
「親切な人にかわります。綾小路さん」
くるっと振り向いて、斜め後ろに居た櫻井さんに電話を渡す。
はああ？と声を出さずに、目を丸くして私を見下ろす。
ふう、とため息を吐いた後、んんん、と喉を鳴らして声を整えてる。
「もしもしお電話かわりました。綾小路です」
綾小路翔だよ、と二宮さんがくすっと笑ってるのを櫻井さんが睨む。
「今日、公園でひどく落ち込んでるAさんを発見しまして、気になって声を掛けたら、なんといいますか、お気の毒な身の上をお聞きしまして。ええ。」
皆が息を止めて櫻井さんを見てる。
「それなら、私の屋敷で是非働かないかと声を掛けさせていただきまして。丁度、メイドが一人辞めてしまって、人手が足りなかったものですから」
どんな設定だよ、と松本さんが声を出さずに、くくくと肩を揺らして笑ってる。
「はい。行くあてもないとのことだったので、住み込みで、働かないかと声を掛けさせていただきまして。……ええ。そうです。ご家族が心配なさってるかと思い、お電話かけさせていただいた次第です。はい」
すらすらと言葉がよどみない。
「……そうですね、じゃあ、しちゅじ、うわ、執事に代わります」
櫻井さんが、電話を押さえて、首をぶんぶん振りながら口パクで、かわって！かわって！おれもう無理！とか言ってる。
電話を受け取ってしまったのは、松本さん。
大きい目を更に大きくして電話を眺めて、仕方なく携帯を耳に当ててる。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2013年11月10日 21時
