２.電話 ページ2
「貼り紙見たんですけど」
「なんの？」
「家政婦の、貼り紙ですけど」
「……」
「あの、もしもし？」
「うっそマジ？うそでしょ？」
電話の相手は、さほど歳は行ってない様子。
声も高め。
「あの……」
「ちょっとＪ、家政婦だってよ、ほら、あの貼り紙の！」
ジェイ？コードネームで呼び合うような？
ますます、怪しい。
むこうでマジかよ、みたいな声もする。
「もしもし？」
「あなた友だちいないの？」
「いません、というかいましたけど、連絡とりたくありません」
「ほほお！いいねぇ！ご家族は？」
「京都に住んでますけど連絡とりたくありません」
「いい！仕事は？」
「先月辞めました」
「職場の人と連絡は？」
「取れますけどとりたくありません」
「ちょっとちょっと、まじ？いいじゃん！じゃ、お金と住むところに困ってんの？」
「はい。今日、晩ごはん食べるお金も、寝るところもありません」
「ますますいい！最高！ごはん作れんの？」
「作れますよ！材料さえあれば！」
「学歴なんかどうでもいいけど高卒？」
「ふつーの短大でましたけど」
電話のむこうで、ちょ、まじ？スゲーのきたぞ！とか言ってる。
「で、ここ重要なんだけど」
「はい」
「明日地球が滅亡しても驚かない？」
「むしろ今すぐ滅亡してほしいです」
「まぁじ？何があったの！あははは！」
ひとしきり、笑い声。
どうやら、スピーカーONにされてる。
「来月結婚式しようと思って入籍までしたのに男が他の女を選んだの！もう一緒に住んでたのに！」
「ぎゃははは」
「友だちも家族も職場の人も連絡とりたくない理由わかるでしょ！」
「わかるわかる！」
すごく笑われてる。
「死のうかと思ったの！そしたら死ぬのにもお金かかるのよ！私昨日の晩から携帯だけ持って死に場所を探してるの！」
「死ぬ前に電話くれてありがとう！」
「ちょっと笑うの可哀想じゃね？」
あ。ひとり優しい人がいる。
「ちょっとおかしくてわたし話せない！Ｊ代わって」
「あ、もしもし？簡単に死ぬとかいうなよ」
「あ、すみません。説教されるならこの話はなかったことに！」
電話を切ろうとしたら、さっきのすごく笑ってる人が、待って待ってって言う。
「あとね、肝心なことなんだけど、あなた容姿はどうなの？中の上？」
「そこが不安だけど見て確認すればどうでしょう！あの、もう充電も切れそうなんです！充電なくなったら死にに行きます！」
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2013年11月10日 21時
