将来の夢(12/25) ページ22
新学期。
ひっそりと静かな教室に入ると、もう沢山の生徒が登校していた。
大きな声や物音を避けるように、ずっとヒソヒソと話し声や、すすり泣く声が聞こえている。
錫来の机の上には、花瓶が置いてあった。
山本は何も言わずに錫来の席を見ている。
錫来の霊は今ここにいない。
母親と一緒に居ればいいな、と少し思う。
山本の周りには友達はいなくて、みんな遠巻きに山本にどう声を掛ければいいのか迷ってるようだった。
「大丈夫？」
俺が声をかけたら、小さく頷いた。
「これでも食え」
山本に、朝姉ちゃんがくれたキャラメルをそのまま渡す。
「キャラメル？」
ねーちゃん、歯医者に通ってるから食べられないのに、持ってたらうっかり食べそうだからやるという理由で押し付けられた、って言ったら少し笑った。
「クレープの方がよかった？また行く？」
「お金ないもん」
「いつも金ねーんだな」
「……ん」
元気がない。
しょうがないか。
「錫来のお母さんの職場の人に挨拶に行かなきゃな」
「……そっか、そうだね」
先生が入ってきた。
この数日で明らかに憔悴してるようで、表情に力がない。
きっと、色々と気が重い手続きなんかがあったんだろう。
各々、自分の席に戻ると、伊沢は挨拶もせず、いきなり口火を切る。
「みんなもう知ってると思うが……」
聞きたくなくて外に目をやる。
まだ日差しは真夏のようなのに、空は高く、風が吹いてカーテンをふんわり揺らした。
その時。錫来の席にポニーテールの後ろ姿が見えた。
思い出して眼鏡をかける。
……錫来の後ろ姿が空気に滲んで、くっきりと机の上の花瓶と、その前の席の女子の夏服の背中が見えた。
眼鏡をずらす。
そしたらぼんやりと錫来が見えた。
眼鏡をきちんとかけて目を瞑って、もう一度開いたときには、その姿は見えなくなった。
今回錫来家は派手に心中したからすぐ見つかったけど、これが人里離れた山奥でひっそりと殺されていたとしたらどうなっていただろう。
俺がどれだけ、錫来みなみは死んでいるかも、と訴えたとしても警察は絶対動かなかったはずだ。
父親の会社が倒産して、家族全員が消えた、となった場合、逃げたと思うのが一般的だ。
でももしこれが、何年も何年も遺体が誰にも気づかれなかったら、警察は本気で探してくれないから見つからない。
仮にこれが、父親の妻子殺人事件だったらどうなってた？
父親がしらばっくれてて、俺が錫来の霊を見た場合。
そう考えてゾッとした。
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かき - このシリーズ大好きで何度も読み返してます！更新応援しています！ (10月28日 21時) (
レス) id: 1a835ab69b (このIDを非表示/違反報告)
みい(プロフ) - 一気読みしてしまいました！よしのさんの小説は本当に読みやすくて感情移入しやすいです！更新楽しみにしています！ (2023年3月4日 18時) (レス) @page37 id: 35d5ff39db (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - 遅くなりましたが読みにきました♪あ〜面白い〜よしのさんの描写が分かりやすくて頭の中で勝手にドラマ化されています＼_(･ω･`)ｺﾚ大事！続きをのんびり待ってます٩( 'ω' )و (2023年2月26日 13時) (レス) @page37 id: b010e36986 (このIDを非表示/違反報告)
コズ(プロフ) - 翔さん＆よしのさんおめでとうございます！この佳き日に二作同時に読めるなんてこちらこそプレゼントありがとうございます！翔さんとヒロインちゃんがどんなこと話してたのか知りたい！雅紀君にはどんな色が見えたのかな？桃色桜色？パチパチ弾けたソーダ水な？キュン (2023年1月25日 15時) (レス) @page37 id: 8b85446469 (このIDを非表示/違反報告)
りん - 櫻井さんとヒロインの色恋もみたいかもーなんちゃって笑笑よろしくお願いします❕ (2023年1月22日 7時) (レス) @page32 id: 616dc38d65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2022年8月31日 7時
