〇≠無の証明Ⅳ－４ (ページ31)

今日:2 hit、昨日:18 hit、合計:577,973 hit

５ページ31

櫻井さんがそこで黙り込んだ。

彼の頭の中で何かがしっかりと形になってるみたいだけど、私にはまだちょっと疑問が残っている。
みんなも同じみたいだ。

翌日。
大野さんと櫻井さんと相葉さんと二宮さんは公安と一緒に病院に行くことになった。

私と松本さんはどうしても尾野さんのことが気になって弟さんに電話をかけてみたら、電話が一向に繋がらなくて気になって直接家に行くことにした。

そこで私と松本さんを待ち受けていたのは、お通夜の準備をしている尾野さんの姿だった。

「あの……」
「ああ、刑事さんどうも」

弟さんが頭を下げる。
「これは一体……」
「母はもう長くないと言われてたんです。昨日の夕方、母が急にマサトシが呼んでるって言って……」
「……」
「会いたかった、よかったって言って、息を引き取りました、穏やかな最期でした」
「……そうですか、それは……お悔やみ申し上げます……」
「会えたんでしょうかねぇ」

弟さんの言葉に、松本さんがフッと目を上げる。

「今二人で一緒にいますよ、信じられないと思いますけど、今ここであなたを心配そうに見ています」
「え……」
「風車？かな？水色と青の……息を吹きかけると回る……それを持って、あなたを元気づけようと……あれは何かなコイン？」
「え……？」
「わかった、ベーゴマか、真ん中に王、って書いてある……それをあなたに渡そうとしてます、元気出してねって」

松本さんがそう言うと、尾野さんが涙を拭うようにゴシゴシと目をこすった。

「そうですか……風車は……入院中の僕の宝物で……退院したら宝物のベーゴマをくれる約束でした……数少ない兄の思い出です」
「そうでしたか」
「ほんとに見えるんですね……」
「はい……お忙しいところ失礼しました……。僕達は明日か明後日にはここを発ちます、お元気で」

松本さんと頭を下げて尾野さんの家から引き下がってそのまま病院に戻ることにした。

やっぱり昨日旧館の前に立ってた女性はマサトシくんのお母さんの昔の姿だったんだ。
迎えに来たのかな。今日は見えなかった。

見えるときと見えないときの違いは何なんだろう。

タクシーに乗り込んだら、松本さんが私の方を見て、ねぇ、と声をかけてくる。

「A、さっきのは見えないの？」
「うん……」
「Aは、向こうから話しかけてくるようなものしか見えないんだな」
「……そうかも」

そういえばそうだ。
少しだけ、残念な気がした。
サヨナラを言いたかった。