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櫻井くんがふと時計を見て、そろそろ行かなきゃ、と言った。
「私も出る、待って……」
慌てて立ち上がろうとしたら、櫻井くんはいいよって私の頭を撫でた。
優しい。
「顔洗いたいでしょ、それにまだコーヒーも半分以上残ってるじゃん」
「うん」
「タオル使っていいよ、コーヒーお代わりあるし、冷蔵庫水入ってるから」
「……あ」
櫻井くんが立ち上がってスマホと財布をポケットに入れた。
「……今日は5時40分から9時10分。その後居酒屋でバイト1時半まで行ってるけど今日はそっち休みだから待ってる？」
「……え」
「テレビでも見てのんびりしとけばいいよ」
「……」
櫻井くんがそう言って玄関に向かう。
「帰りたくなったら……これ」
ぽん、と鍵を渡された。
「……」
「ポストに入れといて」
「本屋に持ってく？」
「……やめて」
櫻井くんがフフ、って笑った。
「……え？」
「今日、お付き合いできませんってお断りするのにAがきたらややこしいだろ、どう考えても」
「今日断るの……？」
「…………行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
玄関まで見送ったら、櫻井くんが、へにゃあ、って笑った。
「ん？」
「鍵閉めといて」
そう言って玄関から出ていった。
言われるままに鍵を閉めて、主人のいない部屋に戻る。
私何やってんだろ。
私、便宜上櫻井くんの彼女になったみたいだけど、なんでこんなことに。
一旦座ってコーヒーを啜った。
少しぬるくなってる。
美味しい。
……美味しい？
そういえば、そう思ったの久しぶり。
泣いたのもすごい久々だし、怒ったのも久々だった。
おばあちゃんのことを思ったら、またじわーって涙が出てきた。
暫くしくしく泣いて冷めたコーヒーを飲んで。
またしくしく泣いて、泣くのにそろそろ飽きてきて、洗面所で顔を洗わせてもらった。
ひどい顔。ひっどい顔！
こんな顔を櫻井くんに見せてたなんて最悪だ。
そう考えたらまた泣きたい。
泣きすぎ。私どうなっちゃったんだ。
櫻井くんが私の中の感情のトリガーをひいちゃったんだ。
感情のコントロール機能壊れてる。
そうだ。
お母さん、心配するといけないから連絡しておこう。
『お友達とちょっと出かけてます。
遅くなるかも』
しばらくしたらお母さんから返事が来た。
『あらそうよかったね！
気晴らししておいで！』
お母さん、自分の部屋の中でずっと閉じこもってた私を心配してくれてたんだ。
申し訳ない。
お母さんの方が辛いのに。
また涙が出た。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
