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櫻井くんの動きが止まった。
「何……言ってんの……」
「櫻井くん、一緒にいられるなら手段は選ばないって言った」
「うん」
「だから、私を手段にすればいい」
「なぁ、ちょっと待って？なにこれ？」
櫻井くんが脱力して、ベッドを背もたれにずるずると倒れた。
「頭、整理していい？もう頭の中ぐちゃぐちゃ……」
「……うん」
「Aは、他にずっと好きな人がいた。それをニノは知ってた、って言ってたよな」
「うん」
「付き合ってたんだろ？」
「うん」
「は？」
もう仕方ない。
誤魔化しがきかない。
ほんとのこと言わなきゃ。
「二宮くんとは親友だった。ほんとに大好きな友達だった。友達だからあんなに好き勝手なこと言えたんだよ、お互い」
「……え」
「世界一大好きな男友達だった、いなくなるなんて思いもしなかった」
櫻井くんが、戸惑ったように私の顔を覗き込んだ。
「どういうこと？友達？」
「うん」
「……付き合ってたよね？」
「……うん」
「ああ、彼氏でもあり親友でもあり、ってやつ？でも待って？お前他に好きな奴いたって言ったよな」
櫻井くんが首を傾げる。
「あのね、二宮くんには何でも話せた。生理痛だ、とか、数学46点だったとか、お姉ちゃんにムカつくこと言われたとか」
「うん」
「あとは……お互いの好きな人の話。同じように喜んで悲しんで励ましあって。帰りにお茶してショッピングして……」
「好きな人の話……」
「うん。二宮くんは彼女のことが理解できなかったの、すごく好きな人がいるのに留学パッと決めて勝手に行っちゃったこと」
「……俺も無理。理解できない」
櫻井くんが口を尖らせてそう言った。
櫻井くんも理解できないんだ。
「私にはちょっとわかるんだ。だからね、励ましてた。彼女の気持ちわかるんだよ、私」
「……」
「彼女は二宮くんのことが大好きで、大好きだからピアノは必要だってことを伝えたりした」
櫻井くんがテレビを消して、テーブルに頬杖をついた。怖い目をしてる。
「大好きだった人が、お姉ちゃんと付き合いたいから私に近づいた絶望も、二宮くんがいたからなんとか乗り越えられた」
櫻井くんが私に目を向ける。
「……中学のときの話？」
「違うよ」
「……」
「それが誤解だったなんて……私達ほんと馬鹿だったね、櫻井くん。今更もう、遅いのに」
考え込んでいた櫻井くんが、ゆっくりと目を上げた。
「……俺？」
「私達、何やってたんだろうね」
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
