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「それは」
それは。
櫻井くんはお姉ちゃんみたいな完璧な人とお似合いで私なんかって思ってたせいで。
からかわれる櫻井くんが可哀想だと思って。
「やっぱ俺ニノに勝てねーのか、って落ち込んでたら、押してだめなら引いてみろとか無責任なこと言ってきてマジうぜえ先輩だった」
「……」
「そんなとき別の先輩が『小泉妹がいるぞー』って。からかってんだと思ったらガチにいるじゃん。ゼッテー下ネタ聞かれたってタイミングで」
「うん」
「聞いてた？」
「うん。私は敵将の馬だから乗ってヒヒンって鳴かせろって言ってた」
「サイテーだな！」
「うん」
「まだ告白すらしてないのにAに乗って言う事聞かせろみたいなこと……そして好意を本人に不本意な形で知られ、即座に他に好きな人いるって振られる俺」
「……」
「あのあとマジでちょっと泣いた、清水先輩もごめんなぁ、って一緒に泣いた。案外いい先輩だったよなぁ……バカみてーだけど」
櫻井くんが懐かしそうに思い出して笑う。
「しかも二股でいいからって」
「……」
「……彼女いる一番になれないニノと、お前のこと惚れててドフリーな俺と秤にかけて負ける俺……ダッセ……」
櫻井くんがソファに反り返ってズルズル、ってなった。
「空いてるお皿お下げしていいですか？」
「あ、どうぞ！」
店員さんにそう聞かれて、ぱっ！と姿勢を正す。その動きが可愛くて泣けてきた。
「ニノの話したらすぐ泣くんだから……」
「違うよ……」
「違わない」
「違うの、好きじゃないの」
「別れたくないってすっげ泣いてたよな……俺の誕生日に！何やってんだよ！嫌がらせ？」
櫻井くんが笑う。
笑ってる。
私笑えない。
「え？待って今何つった？好きじゃなかった？え？」
「……」
「え？」
「他に好きな人がいた。ずっと好きな人がいて。それを……二宮くんは知ってて……」
「……」
「ごめんなさい……嘘ついててごめんなさい……」
「……え？」
「ごめんなさい」
「……出よっか」
櫻井くんが立ち上がる。
何も話さないままお店を出て、コンビニに寄ってお茶とか買って。
二人で黙ったまま櫻井くんのお家に行く。
「時間大丈夫？」
「泊まるつもりで……」
「ん」
櫻井くんが、私の手を握った。
指を絡める。
ぞわ、と電流。
櫻井くんが、何も言わずに部屋に入った。
あとに続いて、今朝来たばかりの櫻井くんの部屋に座る。
乱れたベッドを見て、思わず目をそらす。
自分の残酷さに目眩がした。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
