咎人マリオネット３[S] (ページ30)

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何か、踊ろう。

体が温まったところで、音楽をかけた。
踊ってる間はなんにも考えない。

止まる。息を吸う。ここで魅せる。
背中を意識して。指先で音を奏でるように。
目線。美しく見える首のライン。

体の隅々まで神経を行き渡らせて、

……ああ、わたし。

踊ることが好きだ、って。

たったそれだけが心にある。

心が整理できてから、やっとスマホを見たら、櫻井くんから一通だけメッセージが来ていた。

『たくさん言いたいことがあるけど
ただひとつだけ伝えることができるなら
言いたいことはこれだけ
Aが幸せならそれでいい

今日は休むって皆に伝えたよ
踊ってるのかな。
気が向いたら連絡待ってます』

私。
櫻井くんに愛されてた。
多分、きっと、今も尚。

涙がツッと伝って落ちた。
私は世界一のバカだ。

先生が戻ってくるのを待って、お話を頂いたバレエ団がどこか、オーディションを受けるとしたらいつ行けばいいか、契約は、って、色々聞いて家に戻る。

夕方、お父さんとお母さんが帰ってきた。

私の真剣な顔を見て、お父さんとお母さんが息を呑んだ。

「……ドイツ」
「うん」
「……ええ……？」

しん、と、静まり返るリビング。

「行きたいの？」
「行きたいよ、行きたいけど……」
「……大学は」
「行くなら辞める」
「……」

お父さんとお母さんが腕組みしてそのまま固まった。

「どうしよう……」
「言葉は？」
「今から勉強する」

時計の音。
チッ、チッ、チッ、と聞こえるくらいの。

「ほとんど心決まってるじゃない」
「……」
「大学やめてドイツ行きたいんでしょ」
「……」
「今まで自由に生きてきたんだからこれからも生きたいように生きなさい、お母さんはそう思う」
「でもドイツだぞ！」

お父さんがそう言った。

「お父さん……」
「ドイツ村じゃねーんだぞ？」

ぶふ。
つい三人で吹き出した。

「ヨーロッパ」
とりあえず突っ込んだ。

「ポルトヨーロッパ……」
「それ和歌山」
素早く突っ込む。

「ドイツ村なんて言い出した奴はドイ」
「お父さん静かにして」

お母さんがピシャリと言った。

ふふふふふ。
三人で笑い合う。
笑ってる場合じゃないのに。

「ちょっとよく考える……友達のとこ行ってくる」
「友達……」
「今日は多分帰らない」
「……男？」

お父さんが私を見た。
「……」
「そいつはドイツ……」
「行ってきます」

私がいないと家の中静かだろうな。
ふと、そう思った。