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気づいたら、スタジオの前にいた。
家には帰りたくなくて、おばあちゃんはもういない。
私にはもうここしかない。
けど。逆だ。
私にはここがあるんだ。
他の人にはこんなたくさん逃げ場はないんだ。
「……あらAどうしたの」
先生が私を見つけて、言った。
「先生、あの……」
「どうしたの？」
「踊りたくて……」
今日は学校帰りそのまま来ようと思ってレッスンの用意をしてきていて、踊ろうと思えばすぐに踊れる。
「あらら、何かあったの」
「急にすみません」
先生は私の衝動的な欲求に気づいて笑ってる。
「Aには話があったからちょうどよかったわ」
「……なんですか？」
「事務所に来て」
事務所に入って椅子に座る。
先生が自分の席に座って、私を見た。
「清海先生がね」
「はい」
「去年の発表会に来られてたでしょ」
「はい」
清海先生というのは先生の師匠だ。
時々先生の発表会で人が足りないときとかに貴族役とか友人役で賛助出演することもある。
「実はその時ね、ドイツのバレエ団の芸術監督が遊びに来てて、晴海先生に日本の教室の発表会この辺でやってないか、って遊び半分で来たらしくて」
「……はい」
「エスパーダは誰だ？ってことになって。エスパーダは日本のバレエ団のダンサーです、って答えたらメルセデスは？って」
「……」
「今は普通の高校生で来年大学生って答えたら違う踊りも見たいって言ったのね」
「はい」
「だから先生Aがこないだイベントで踊ったエトワール送っちゃった」
エトワール。
メルセデスと真逆じゃない。
一緒なのは腰の柔らかさだけ。
「見たよって返事が晴海先生のところに真夜中に連絡あって」
「はい」
「オーディション受けないかって言われたんだけどね、ただ、オーディション受けたら多分バレエ団に入団ってことになるから」
「……」
「大学も休学するか辞めなきゃだし……」
急に胸がドキドキしてきた。
私が、バレエ団に？
「Aはもうすぐ19歳ね」
「はい」
「最後のチャンスかもしれない。どんどんチャンスは少なくなっていくわよ」
先生が私をじっと見た。
「今朝方晴海先生から電話きて眠い……」
先生がおっとりとそう言った。
「ドイツ……」
「今日来たら話そうと思ってたのよ」
先生が笑った。
「どうする？」
「……今すぐにでも飛んでいきたい……んですけど……」
「うん」
「私一人じゃ決められません……」
そうね。先生が微笑んだ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
