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私が櫻井くんを振った？
どうしてそんなことになってるの？
9月3日?
あれは。
だってあの日は。
「ニノに二股でいいから付き合ってって言ったのって、9月3日だったんだろ？」
「……え？」
「付き合った記念日とかって忘れないもんじゃないの？」
「……あ……」
「好きな奴と付き合わなきゃ時間もココロも勿体無いから無理言って付き合ってもらったんだよな？まぁお似合いだったもんなお前ら」
櫻井くんが、はは、って短く笑った。
「Aがニノのこと好きなんだろうな、と思ったのは6月くらいだっけ？それくらいのとき。生徒総会の後かな？」
「……生徒総会……」
「ニノは、お前を傷つける形でお前を守っただろ。あんな守り方俺にはできないよ」
コーヒーを淹れるために立ち上がった櫻井くんの背中を呆然と見おくる。声が出ない。
「最初にAのコンプレックス暴いてちょっと怒らせて、周りのみんなに、あー、姉の話題、Aには禁句なんだなって思わせた」
「……」
「……俺にはちょっと、そこまでAを理解できなかったし。その時からAのニノを見る目は大切な人を見る目に変わっただろ、気づいてたよ」
「え……」
「二人しょっちゅう口パクとか、ジェスチャーとかで目を合わせて話してた、二人の間には割り込めない空気がずっとあって……」
「……」
「二人が目で会話したり、喧嘩したりしてるの、ずっと間で聞かされてる俺の気持ち想像してみろよ、笑えるだろ」
体ががくがく、と震える。
理由はわからない。けど。
嬉しくて？違う、そういう理由じゃない。
そうだ。わたし。
失ったものの大きさに今恐れ慄いている。
「お前、学校行く用意早く……」
「……」
「どうした？」
「……私が、櫻井くんを……振った？」
「うん。俺振られてやっぱAはニノが好きだったんだなってやっと納得行って馬鹿だろ」
「……お姉ちゃんは……？」
「ああ、俺と紫織の関係？」
「……」
「紫織も先生のことでキツい時期あったしね、俺もほっとけなくて……だからつい」
「つい……？」
櫻井くんが私を見下ろした。
とても冷たい目で。
「……俺と紫織の関係、Aは聞かないほうがいいと思うけど？」
とうとう私は。
声を出すこともできないまま頭を抱えてうずくまった。
脳が処理できないと判断したのか。
私の目の前は真っ白になる。
一度、逃げよう。そうする。
「A」
「一人になりたい」
走って、逃げた。
現実から。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
