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櫻井くんの腕枕。
ってより、ほんとに抱き枕。
ぶる、と寒気がして櫻井くんの胸の中に潜り込む。
「……A、寒い？」
「ううん、あったかい」
「俺も」
櫻井くんが私をぎゅううう、って抱きしめた。
「くるし」
「……うん」
はぁー、と体中の空気を抜くように、息を吐き出した。
「通り魔事件あったの？駅前でパトカーいっぱいいたのって……」
「うん。駅前で女子大生が刺されたって」
「犯人は？」
「逃げたらしいんだけど、今朝方もう捕まったって聞いた」
「よかった。動機は？」
「若い女だったら誰でも良かったって」
「……」
「顔を何回も刃物で……命に別状はなくても……」
「嫌……怖……」
「すげー心配した」
「過保護だ」
「過保護だよ」
「おばあちゃんじゃん」
「そうだった、俺お前のばぁちゃんだったなそういや」
櫻井くんが私をぎゅっとまた抱きしめた。
「大丈夫、守るから」
「……私を？どっちの私？」
「ん？」
櫻井くんの胸に顔を埋める。
「ありがとう、翔くん」
できるだけ、お姉ちゃんの真似して言った。
誰を守るの？って聞いたらだめな気がした。
昨日連絡取れなくて腹を立てたのは私に対してだったけど。
ねえ、櫻井くんはどっちなの？
守るのは、私？紫織の代わりの私？
わかんないよ。
わかんないから。
怒ってほしくてつい試したくなった。
バカみたいだけど。試したくなった。
お姉ちゃんのフリをしたら、櫻井くんどうするんだろうって。
馬鹿、って言って。
なんて、救いようのない、虚しい願い。
「今の……紫織っぽい……」
「眠いんでしょう、翔くん。少し寝たら？起こしてあげるよ」
「……え？」
「おやすみ」
「え？え？A？」
「……」
「紫織？」
「なあに？」
「……A」
「Aがどうしたの、講義中眠くなっちゃったら困るでしょ、少し寝たら？」
「夜中、ずっと連絡待ってた」
「……」
「だから、眠い」
「……ごめんなさい」
「いいよ、……紫織」
櫻井くんがそう呟いた。
大丈夫。
心を空っぽにする。
あったかい。
櫻井くんは、あったかい。
優しいし、守ってくれるし心配してくれる。
鼓動が聞こえた。
ドクン、ドクンって。
生きてる。
あったかい。
胸の中。
これ以上何を望むの。
「キツ……」
櫻井くんがポツリと呟く。
「……」
「こんな好きなのに何で？」
苦しそうに呟く櫻井くんの声を。
私は何の感情も抱かずに聞いて、
目の前の美しい人形を抱きしめる。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年1月14日 14時
