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このスタジオの今日のシーンは終わったらしい。今から外に出るらしく、紫音くんがバスに乗って移動することになった。
その前に私たちの前に来て、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございました、今日は特に何もなくて、……せっかく来てくれたのに……」
「いやいや、こう見えて色々見えたよ、もう大丈夫だと思うけど、もしまた何かあったら連絡くれるかな」
櫻井さんがこ黒瀬ユイにも名刺を渡そうとしてるの見て、思わず耳を引っ張った。
「やきもちですか？Aさん」
紫音くんがそう言った。
「違う！」
「でもそう見えます、櫻井さんもやきもち焼いてるし……二人はお付き合いされてるんですか？」
「嫌よ！」
「はあ？そんなわけねーだろ！」
ああ、また同時に否定した。
仲良しと思われるじゃないか。
「じゃあ僕がAさんを好きだって言うたびに不機嫌になるのやめてください」
おお、紫音くんってば櫻井さんに食って掛かった！
「紫音くん趣味悪いぞ」
「僕の命の恩人なんですから好きになっても仕方ないと思いませんか？命の恩人にはどうしても特別な思いを抱きませんか？」
「俺Aの命の恩人になったことあるけど特別な想い抱かれてないけど？もっと言うと紫音くんの命の恩人も多分俺」
「……」
「はい行ってらっしゃい」
櫻井さんが笑顔で紫音くんを見送った。
「……大人げない……」
「うるせえ」
「じゃあ俺らも帰りましょ」
松本さんが櫻井さんにそう言った。
皆で車に向かって歩き出す。
「……櫻井さん」
「何だよ」
最初から喧嘩腰なのはなんだ。
「一つ提案があるんですけど」
「なに」
「お互い、仕事中は心の恋の声は禁止にしませんか」
「それは俺の台詞」
「話が早いですね、じゃあお互い、恋愛禁止で」
「この年で恋愛禁止を言われるとはな……」
……なら二人がお互いに気が合うし居心地いいし、好きだなあ、って思うのも家でやってね。
まあまあクリアな心の声が頭に響いてぎょっとした。
この声は、大野さん。
大野さん、後部座席でうとうとしてるのに！
櫻井さんと目が合った。
……気のせいかな？かなりクリアだったよな？
……うん、かなり。話してるのかなってくらい。
大野さんに意識を集中させる。
もう、何も聞こえない。眠い、とかそれくらい。
……もしかして、全部聞こえてるんじゃないの？
……俺も前からそれ疑ってる。
署に戻る車の中。
松本さんの「腹減ったな」って声だけが静かな車内に響いた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年7月6日 1時
