月のない夜は君と[Ｎ] (ページ46)

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「……」
「Aさんが気持ち悪い、吐くって言ってこの！僕の超お気に入りのタイガ見て！カバン貸せ！って！あはは！」
「えー、ひどー……いい鞄なのに」
優奈ちゃんの返事もつまんないぞ！

「……あは、二人お似合いですねー」

はうう！手越くん。
バッサリいったわね。
涼ちゃんの目の色が変わった。
優奈ちゃんが、お似合いだってって嬉しそうな顔をした。

それを後ろで見て、なんだか胸が痛む。

「あ！Aさんだ！Aさーん！」
なんてこった！手越くんに見つかった！二宮くんは……逃げた！酷い！

「ああ、おはよ、手越くんと、そこのお二人」
澄まして挨拶してやった！負けるなA！
逃げるな二宮！

「おはよ、Aちゃん……」
上目遣いで涼ちゃんに半分隠れるようにして立ってる優奈ちゃん。涼ちゃんのスーツの肘あたりを掴んでやがる。

「A」
「おはよう、清々しい朝だね！」
「嫌味？」
「そう聞こえるんだ」

手越くんと目が合った。じっと私を見る。

「やっぱり恋人交換した感じですか？」
同じこと聞いてきた。
「あー、前のが古くなってバグっちゃったからね、新しいのと交換しよっかなーって」
「パソコンじゃないんだから！それに！二宮さんより僕のほうが新しいのにー！」
「だめよ！手越くんは皆の王子だから」
「Aさんわかってるぅ！」
投げキッスしてきた！

「う、その鞄貸して、ちょっと吐く」
「やめてぇ！」
「貸してー！」
「逃げる！」

二人から逃げるチャンス！
「A！」
手越くんを追おうとしたら二宮くんがきた。

「要介護者が一人で徘徊しないの！」
「うるさいよおじいさん！」
「待てAばあさん！」
「またいちゃついてるー」

手越くんがアハハー！って笑って、先行きまーすって言った。
二宮くんが私の頭をぽんと叩いて2人に聞こえるように言う。

「A、手越くんに浮気しちゃダメよ」
「あはは！浮気！」
「二股とかしたら承知しないよ」
「もし私が浮気したらどうする？」
「一緒に死のっか」
「いいね」

二宮くんが涼ちゃんを見て「じゃあね」って勝ち誇ったような顔で言った。

「私たち逆ギレされたっぽくない？月のない暗い夜道で襲われるかもね」
「……是非に及ばず」

二宮くんってば。
「その時は守ってあげよう」
「勝てる気しかしない！」

暗い道も明るい道も。
君と一緒ならそれで。

微笑み合って、二人同時に一歩踏み出した。