37(2017/04/08) ページ37
「強いものに惹かれるってのは人間の本質だよね……いきなり先輩に可愛がられてた」
「……それは二宮くんもそうじゃない……」
「そだね」
二宮くんが、言葉を選ぶようにじいっと缶を見つめてる。意を決したように目を上げる。
「同期にも、Aをニヤけた先輩社員に取られてたまるかー！みたいな奴何人かいたこと、Aは気づいてた？」
「……知らない」
「そのメンバーに涼ちゃんと、俺もいた」
「嘘だ……」
「男同士で飲みに行ったら、やっぱりどの子が可愛いとか、軽口でそんな話になったりすんじゃん」
「そうなのかな……女同士でも、同期では誰が好み？とかそういう話は確かにしたな……」
「そうそう、そのノリ。で、俺は得たAの情報を皆で共有したりした」
二宮くんがふふ、と笑った。
「……共有」
「Aが涼ちゃんと気があった理由はそれだよ、話なんていくらでも合わせられるよね」
「……」
「あとは、誰が一番本気でAのことが好きで、誰が一番最初に抜駆けするかって感じだったんだな、実は」
「二宮くんも……？」
「まぁ、ノリだよね。優奈も可愛いなーとかみんなで言ったりしてたし。優奈は簡単に誘えるけどAはフラレそうで言えないとかね」
「知らなかった」
「そりゃそうよ、抜駆け禁止の暗黙の了解があったんだもん」
「……」
私も黙ってビールを飲むけど、なんだか味がしない。
「バランスが崩れたのは結構早かった、Aと涼ちゃん、同期では抜きん出てたんだよね、すぐに会社で頭角を現した」
「……」
「俺らは恋や愛だの言ってる場合じゃなかったんだよ、その間にAはプロジェクトとかのチームに抜擢されたりしてエリートコースまっしぐら」
「それはたまたま偶然……お客さんが知り合いだっただけで……」
「運の良さも才能だよね」
二宮くんが遠い目をした。
「なんて言うんだろ、挫折に近いような感情。同期に負けた、しかも女に。女を卑下してるつもりはないよ、だけど待てよ、って」
「うん」
「Aって馬鹿だけど可愛いとこあってさー、なんてもう言えない」
「……」
「A相手に、バーカ、とか、鈍臭いやつだな、とか、ホラ来いよ、みたいに対等に言える立場になったのは涼ちゃんだけ」
「……いやいや、それ関係ないでしょ」
「あるよ？同期に抜かれる悔しさ、しかもそれが仄かに恋心を抱いていたAってことはね、当時の俺にとっては結構ヘビーだった」
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月31日 8時
