月のない夜は君と[Ｎ] (ページ1)

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南さん、申し訳ないんだけど！
資料室から2005年のＡデパートの改装の図案、持ってきて。

電話応対にかかりきりの課長から名指しで言われた。

なぜ私に言うんだ、と周りを見渡して気づく。

え！誰もいない。そっか！今お昼休みだ！
集中してて全然気づかなかった。

「はーい」

ご飯、どうしよっかな。なんて思いながら、企画部を出てパソコンの見過ぎでちかちかする目をしばしばさせる。

私の所属する企画部は不動産会社のビルの内装工事のリフォームなんかを手掛けている。
少数精鋭でやってて、皆キリがいいところでご飯に行く。
どうやら私は、立て込んでるね、って感じで見捨てられたらしい。
同期の二宮くんが、南さん、って声をかけたの、あれお昼だよ、って意味だったのね。

男勝りに仕事をしていて、いやあ、南さんに任せたら完璧だから安心だわー！
とか言われて、バリバリ働いて。
周りが寿退社とかしていく中、婚期を逃してるけど。
私はね！結婚できないんじゃないの！しないだけなの！
だってほら！私イケメンの彼氏もいるし！！！

なんつって。

私には、すごい営業のエリートで将来を期待されてる、同期の涼ちゃんという彼氏がいて、うっすらと、将来の話をしたりしてる。
子供は２人ほしいなあ、とかそういうの。

私の人生、勝ち組だった。
……そう、地下室の奥にある、誰も来ないことで有名な資料室に向かうまでは。

暗いからちょっと怖いんだよな、と思ってエレベーターから降りたら、廊下に明かりがついてる。
誰がいるのかな。

電気を点けてもほとんど真っ暗な中歩き出したら、後ろから羽交い絞めされて口を押さえられた。
パニック！
こんなとこで襲われたら誰も助けに来ない！

暴れて後ろにいる奴を蹴飛ばそうと振り返ったら、南さんしーっ！って声。
この声は、二宮くんだ。
振り返って睨んだら、しー！いい？しーだよ、って言いながら、私の口から手を離した。

「何」
「だからしー！」
仕方なく、うんうん、と頷く。

「悲しいお知らせと残念なお知らせ、どっちから聞く？」
私の耳に唇をくっつけるくらいの距離で二宮くんが聞いてきた。

「じゃあ、悲しいお知らせから」
「俺の彼女がそこで浮気してる」
「うっそ、優奈ちゃんが？……え？資料室で？」
「うん。で、次は残念なお知らせ。俺の彼女が浮気してる」
「それ聞いたけど」
「お前の彼氏と」
「は？」

二宮くんが、がくーって座り込んだ。