いつも君を見てる[A] (ページ30)

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会社のゲートを通るときにIDをタッチしていたら、おはようございます、と警備員さんに声をかけられる。

「おはようございます」

今日はいつもの人じゃない。
ああ、そうか。ちょうど9時とかに交代とかがあるのかも。
うちは9時半までに出勤、と決まってる。
だからいつも大体9時過ぎに入るんだけど、今は9時前。

「おはようございます」
笑顔で返事したら、あ、とその人が小さく声を出した。

「はい？何か？」
「山本くん……」
「山本さん？」
「いえ、すみません」

その人は困ったみたいに後ろを振り返った。
頭を下げて通り過ぎる。

自分のデスクについて昨日の続きの作業をしていたら、坂本さんと沢村さんが出勤してきた。

「おはようございます！」
「おはよ、Aさん早いね」
坂本さんが私を見て微笑んだ。

「坂本さんもいつも早いですよね！」
「うん、もう出るからね、打ち合わせ」
「そうですか、久々に会ったのに……」
「こらこら、そんな顔したら期待しちゃうでしょ？行ってきます」

坂本さんが微笑んで出て行くのを見て、沢村さんが私をジトーっとした目で見た。

「坂本くん狙ってんの？」
「へっ？」
「二宮くん？」
「ええっ！」
「菅田くんは違うよね……」
「誰も狙ってません！」
「え、そう？」

そういう風に見えちゃうの？
気をつけなきゃ。
ああ、自己嫌悪。
私そんなつもりじゃないのに。

「おはよう、男たらし」
後ろから思いっきり頭を叩かれた。
振り返ったら二宮さん。

「いった！」
「小悪魔」
「二宮さんだけには言われたくない……」
「で、あの後どうだった？俺のパンツの威力は？」
「効果ありません、電気消したらおやすみってまたメールが来て」
「見せて？」

二宮さんがメアドをひかえてる。
「ブロックした？」
「とりあえず、アドレス帳に入ってる人以外はメール受け取れないようにしました」
「面倒だけど仕方ないよね……」

二宮さんが、ふー、と息を吐いた。

「泊まってもらえばよかった」
「……」
「って馬鹿なこと考えた」
「自分が馬鹿ってわかっててホッとした」

二宮さんが、疲れたみたいに笑った。

「今日、送ってあげたいけどちょっと友達に会ってくるから」
「お友達？」
「お前帰り大丈夫？」
「ああ、710号室の人と一緒に帰ることになってて」
「……」
「昨日、明日一緒に帰ろ、って連絡くれて」
「……1人よりは、ましか……」

二宮さんがそのまま黙り込んだ。