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……マスクを外して、ポケットに入れてる理由は？
普通、マスクって持ってたら外でつけるものじゃないの？
……まさか、さっきの人じゃないよね、違うよね、まさか。
思わず、全身を確認する。
黒っぽい恰好。
ああでも、違う気もするし、さっきの怪しい影の男にも見える。
わからない。
それに、息が上がってた、走ったってことよね。
ああ、でも。……同じマンションだからあとをつける理由ないじゃない。
そうだ。
もし、本当に友達が家の前にいたら、信用すればいいんだ。
友達って、彼女？
「そういえばさ、この前」
相葉さんが私の方をみて、ちょっと笑った。
「え？」
「ああ、もし見間違いだったらごめん、っていうかもし見間違いで人間違いだったら俺すっげえ恥ずかしいんだけど」
「……え？」
「……Aさん、俺の店の前にいたことあるよね？」
相葉さんが真剣な顔で聞いてきた。
「……ああ！はい！そうだ！今度あったら聞こうかと思ってたんだった！」
「よかったー！っていうか、忘れてたの？ひどー！」
「いえ、ちょっと今、他のことで頭いっぱいで」
「他のこと？ん？そういえば、顔色悪いね、大丈夫？」
「はい……」
相葉さんが、本当に心配そうに私を見下ろした。
この人は、多分いい人だと思う。
でも、あの時。
鏡越しに見た、相葉さんの、笑顔が剥がれ落ちた瞬間は。
「会社、近所だったんですね」
「ああ、そうなの？偶然！」
「はい、あの近くの……」
七階です。
機械の声がして、エレベーターが開く。
開ボタンを押して、先に降りてもらうことにした。
「ありがと」
「あのお店で働いてらしたんですね、全然知らなかったです」
「ああ、うん。３年前にオープンしてー」
「……へえ」
「あんまり俺受付に居ないから。指名があるときだけ……あ！翔ちゃん」
相葉さんが家の前にいたスーツの男の人に声をかけてる。
「おせーよ！」
「ごめんごめん！」
「土産に買ってきた焼き鳥食っちゃったよ！」
「え？ここで？」
二人がニコニコ笑い合ってるのをみて、ちょっとホッとした。
相葉さん、疑ってごめんなさい。
「あれ？……え？相葉くん、彼女……？……ごめん、俺！帰る！」
その人が急に慌てだす。
「え！違うよ翔ちゃん！この人はご近所さん！」
「え？でも今一緒に帰ってきたよね？え？」
「712のこ！」
「え？ああ！この前可愛い子って言ってた子だ！」
「翔ちゃん！」
「あはは！」
……ああ、二人とも明るい人だ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年11月28日 8時
