いつも君を見てる[A] (ページ11)

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「8424円です」
す、が聞こえないくらいのボリュームだった。

お金をだしたら、80円のお返しです、ってまた、す、が聞こえないくらいの大きさ。
なんかおかしいんだよなあ、この子。
よく見たら美形だし、声の出し方もなんか可愛いというか。
はがきのお客様控えをぴりぴり破って、私にはいって渡した。

「……あ、どうも」
「……あ、の」

大野くんが私を見て、真剣な顔をした。
何。何を言うの。

「プリン……」
「はい……」
「あります、けど……」
「……え」
「買う？」

あれ、なんかいきなりため口になったぞ。

「買う……」
「まって」
大野くんがバックルームに向かって走り出した。

「……」
もう一人のバイトの男の子が、こっち見て、いらしゃいませ、って言った。
「……」

妙な沈黙。
大野くんが帰ってきた。

「はい」
「え」
手渡されたのは、私がいつも買うプリン。

「おねえさん、いつも買うでしょ」
「うん」
「毎日買ってる」
「……うん」
「俺ら、お姉さんのことプリンさん、って呼んでてー」
「え」
「プリンさん」
「プリンさん……」
「今日、プリン全部買おうとしてるお客さん来てー」
「……」
「あいつが、いっこ、隠した」

大野くんがバイトの子を指さした。
あの子の名前は確か桐山くん。

「あ、ども……」
「ああ、どうも……」

お互いに頭を下げ合いっこ。

「どうすんの、それ、って聞いたら、俺が買うって言って」
「え、じゃあ、これは桐山くんの……」
「……プリンさんなんで俺の名前しってんすか？」

はああああ。
ついうっかり。
うっかり！

「ごめんなさい、名札をつい！毎日来てるうちについ！」
「いや、光栄です、っていうか……えと」
てれてれ。
お互いちょっと照れる。

「プリンさん、俺の名前も知ってんの？」
大野くんが名札を手で隠した。
「……」
「知ってんの？」
「……」
「名前当てたら、このプリン売ってもいい」

ナニコレ。
なんでコンビニで私こんな。

どういうこと。
コンビニってもっと他人行儀というか毎日会ってても初めましてみたいな顔するとこじゃないの？
毎度！とか言わないよね？
言う人もいるだろうけどさ。

「大野くん……」
「正解。名札って結構見られてんだねー、あははー」

ああ、なんだこれ。

「っていうかプリンさんの名前、Aさんでしょ」
……なんでそれを！

「そんな恐怖におびえた顔するんだったら、こういう支払いのとか、銀行引き落としにする方がいいよ」