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━━半年前。
ピンポーン。
マンションのゲートの方のインターホンではなく、家の前のチャイムが鳴った。
ゲートの集合玄関の方のインターホンでは、顔も見えるし、セールスマンだとわかると居留守を使うこともあるけど。
家の前に誰かいる。
時計を見る。
夜の8時。
帰ってきて一息ついた時に、待っていたかのようになるチャイム。
このまま無視しちゃおうか。
でも。
そおっとドアスコープから外を見てみた。
目の前には、サラサラの茶色い前髪と、黒目がちの優しい瞳をもつ、好青年を絵に書いたような男性が立ってる。
両手で何か箱をこっちに見せるように。
「……ん？」
蝶の水引。
表書は、ご挨拶。
名前は、相葉、となってる。
首を傾げて、ドアスコープを見つめて、箱が見えるように体を傾けたりして、困ったように微笑んでる。
慌てて部屋に戻って通話ボタンを押す。
もしかしたら、空き家になってた2つ隣に引っ越してこられた方かも。
オートロック式のお家では、引っ越しのご挨拶をしない人も多い。
礼儀のちゃんとした方なのかな？
「……はい」
「あ、お忙しいところすみません、僕710号室に引っ越してきた相葉と申します」
「お待ちください」
710。
やっぱり。
710はエレベーターホールのすぐ横。
家の前を通ることも多いから、ご挨拶してくれるのはありがたい。
窓の隙間から覗かれてたりしたらたまったもんじゃない。
……妹が、ストーカー被害にあった。
元カレがストーカーになったという、よくあるパターンだけど。
色気づきやがって。
俺と別れてそんな嬉しいか？
そう言いながら妹の髪をハサミで切った。
払いのけようとして手を三針縫う怪我もした。
近所のおじさんが妹を助けてくれて助かったけど。
その後妹と両親は、それを機に、田舎でひとり暮らししてる祖父の家に引っ越した。
私は仕事を辞められず、両親の大反対を押し切ってひとり暮らしをすることになった。
引っ越して、半年。
妹がストーカー被害にあったトラウマが抜けきれなくて、ひとり暮らしのことは誰にも言ってない。
711号室は、単身赴任中のお父さん世代の方。真夜中にしか帰ってこない。
712号室は私で、713号室はバリバリのキャリアウーマンのアラフォーのお姉さんが住んでる。
715号室は殆ど帰ってこないけど、ものすごいイケメンのお兄さんが住んでることは知ってる。
付き合いがあるのはお隣さんだけ。
恐る恐る、ドアを開けた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年11月28日 8時
