序章 ページ1
……ハァ、ハァ。
息が上がる。
慌てて、近所のコンビニに飛び込んで、お菓子売り場まで走って身を潜めた。
ハァ、ハァ。
……怖かった。
会社を出てからすぐに気づいた。
……私、つけられてる。
戻って二宮さんに一緒に帰って、ってお願いすればよかった！
でも二宮さんなら、お前みたいなの誰も襲わねーよ！みたいに笑われそうだし。
なんて思って、気のせいだと思い込んで。
だけど。
電車の中でもずっとまとわりつくような視線。
視線を感じて振り返っても、誰もこっちを見ていない、というのが何回か続いた。
気持ち悪い。
電車を降りて、歩きはじめて、ふと気づいた。
背後から私のスピードに合わせて歩く足音。
私が早歩きになったら早まる。
もしや、と思って軽くかけ出したら、後ろの足音も早くなった。
こわい。
このままマンションまでついてこられたら！
想像してゾッとした。
地面に散らばる髪と血痕が目の前にフラッシュバックして血の気が引く。
「いらっしゃいませ……？どしたの？」
私の勢いに驚いたコンビニの学生バイトの大野くんがレジから私を見て不思議そうに首を傾げる。
「付けられてて……」
「え？通報する？」
大野くんが私の方にきて、さりげなく外を見た。
「あのひと？」
上がる息をごくりと飲み込んで、息を整える。
かばんをぎゅうっと抱きしめて、背中にゾワゾワくる寒気を逃す。
見るの怖い。
けど目の前に大野くんもいてくれるわけだし。
大野くんの顔を見上げたら、眠そうに外を見て、こういう場合ってどうしたらいいのかなあって呟いた。
そおっとお菓子の棚の間から外を見てコンビニを覗く人を確認する。
……え！
相葉さん……？
「……え？そんなわけない、あの人しかいなかった？」
「うん、Aさんのすぐあとに来たよ」
大野くんの言葉に首を傾げていたら、相葉さんがコンビニに入ってきた気配がした。
「……いらっしゃいませ」
大野くんがそう言った。
「こんばんはー」
「あは、こんばんは」
相葉さんが大野くんをみて微笑んでから、大野くんの背後の私に気づいた。
「あれ？Aちゃん？どうしたの？」
「あ、気分悪いみたい」
大野くんごまかしてくれたのかな？
私を見て、小さく頷く。
「だいじょうぶ？」
「うん」
「一緒に帰ろ」
相葉さんと一緒ならもう大丈夫かな。
ホッとして、足がもつれた。
相葉さんが私を抱き寄せた。
あったかい。
……ああ、もう安心だ。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年11月28日 8時
