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その日から。
おにいちゃんが帰ってくる日は、私が塾とか言って帰りを遅くしたり、
とにかく、会わないように心を砕く日々が始まった。
勉強、しなくちゃ。
もしうっかり家で会っても、勉強するって口実で部屋にこもる。
目も合わせない。
好きだってことが、おにいちゃんにバレてる。
それだけで、なんだか気まずい。
私のことを、もうなんとも思っていないおにいちゃんに片思い。
なんて滑稽なの。
私だけが、あの夢みたいな二日間にとらわれたまま、動けない。
一度だけ、おにいちゃんが彼女らしき人と歩いてる姿を見かけた。
栗色の髪は肩にふんわりかかって、色白で細くてちっちゃくて、白いブラウスと白いスカート。きれいなミントグリーンのカーディガン。グレーかシルバー系のカバンとヒールの靴。
大人っぽい。
それに引き換え私は。
くたびれた靴と、よれよれの制服と毎回そろえるだけの長い髪。
自分の姿を鏡に映して、部屋でやっぱり泣いた。
早く忘れなきゃ。
早く。
早く。
自分を追い詰めて、追い詰めて。
そんなとき、ささやかな趣味を見つけた。
ボルシチってどんな味？ってちょっと思ったらどうしても作りたくなる、好奇心。
料理の本を買ってきて、気分転換に料理を作って、自分好みに味を調えて。
レシピに書き足したり、写真を撮ったりして楽しんでみたりした。
綺麗な食器がほしい。ランチクロスも。
照明にもこだわって、おいしそうに見えるように角度を変えて……
こんな仕事、できたらいいな。
そう思って自分の進路の方向性が決まった。
出版社か、フードコーディネーターか、そういう世界。
漠然と思い描いた未来を、少しずつ形に変えていく時間。
徐々に、恋や愛に苦しんでる場合ではないと、気づく。
やりたいことが見つかったら、勉強の意味も分かってきた。
ただ勉強するのではなく、夢をかなえるための一歩。
希望がはっきりしていたことと、学力は全然余裕でクリアしていて、３年になるまで欠席が１とかで、しかも学校の生活態度や家庭の事情を知ってる担任から、指定校推薦の話をもらった。
面接と小論文。
これだけでいいの？って感じ。
よくわかんないけど、私は先生の中で、小さいころから家のこと頑張ってる、みたいなお涙頂戴のストーリーの主人公になってる。
メグちゃんはちょっと難関大学を目指すみたいで、田村くんと毎日勉強してる。
否応なく、大人になっていく。
恋の喜びも、まだ知らないまま。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
