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それに、そうだ。
おにいちゃん、言ってた。
Aはほんとに、頑張れる？
会えなくなっても、信じて待っていられる？
って。
私の火傷の傷を、俺のせいにしておいてって。
『これ、俺の、って証明にしといて、責任取るから、どんな手を使っても絶対』
って、言った。
『だから、信じて』って。
まだ付き合ってもなくて、おにいちゃんがどこに行ったのかもわからなくて、なのに、信じて？
勝手だよ。
ひどいよ。
だけど信じるしかないじゃない。
静かに泣き続ける私の頭をお父さんが、ぽん、と叩いた。
「電話もメールも拒否してるのか和くん」
「……」
「……そっか」
「……お父さん嫌い」
「……すまん」
「おにいちゃんも嫌い」
「……」
「どうして、好きなのに離れなきゃいけないの？」
「……」
「大人は良くて子供はダメなのはどうして？」
「……それは」
「私たちもう結婚できる年なんだよ？学生だからダメなの？学校やめたら許してくれる？」
お父さんが、深いため息を吐いた。
「ね、おとうさん。好きって気持ちに年齢は関係ないでしょう？」
「和くんは本当にお前が好きだったんだな、なるほどね」
「ね、おにいちゃん、どこいっちゃったの？相葉先輩のお家なんて嘘だもん。あの女のとこなんだ、きっと」
「あの女？」
お父さんが不思議そうにした。
「あの女、っていうひとがいて、その人のとこにいるの、おにいちゃん」
「……」
「場所、教えて？知ってるんでしょ？」
「万一のために、どこにいるかは聞いてる、だけど場所は知らない。どうせ新学期になったらまた会うんだから。もう寝なさい」
「夏休み、もう帰ってこないの？」
涙がぼろぼろ落ちた。
慌ててぬぐう。
「その間、勉強しなさい。和くんも受験勉強するはずだから」
お父さんが立ち上がって冷蔵庫からビールを取り出す。
疲れたみたいにため息を吐いて、ビールを飲むお父さんを見て、もう何も言えなくなる。
「お父さん」
「ん？」
「おにいちゃん、大学いけるの？」
「約束したからね」
ああ、おばさんと約束したんだ。確か、そう言ってた。
大学行かせてあげるって条件込みで、お父さんとおばさんは結婚したんだった。
「お母さんには、なんていうの？」
「俺から話す、お前は今まで通りでいい」
今まで通り？
なにその茶番。
おばさんがお風呂から出る気配がして、慌てて自分の部屋に戻ってベッドに沈み込んだ。
……おにいちゃんの残り香。
うう、って嗚咽が漏れた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
