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お風呂に入ろうとして、脱衣所に行ったけど、おにいちゃんがお父さんに何を言うんだろうってそればっかり気になった。
リビングには二人の姿はない。
おばさんは荷解きをしていて、気づかれないようにそおっと二階に上がった。
おにいちゃんの部屋なら防音だから盗み聞きできないよ。
でも低い声が聞こえてきた。
薄くドアが開いてる。
お父さんはドアをきっちり閉めない癖があって、それは昔壁の薄いアパートに住んでたからだ！って言ってた。
そろりと耳を傾ける。
「ごめんなさい……」
「それは、悪かった……気づいてあげるべきだった、けどね和くん、出て行くってのは」
……出て行くって言っちゃったんだ。
サッと血の気が引く。
「でも、もうAと一緒には暮らせないとお父さんも思うよね」
「……」
「もうこの家に俺を置いとけないって思うでしょ？それが普通だよ」
「なんとかならないか？」
「Aを諦めろってこと？」
「……うん」
「無理かなぁ、何回も諦めようとしてこれだもん」
おにいちゃんの笑い声がした。
私のこと好きだって、言っちゃったの？
「Aには、伝えた？」
「……Aは、関係ないよ、お父さん」
「……言ったんだな」
「……」
「どうして急に……まさか……旅行中に……」
「Aには手を出してない、守ってやれって言われた約束は果たしたよ！」
おにいちゃんがきっぱりと言った。
「……」
「結果的にやけどさせちゃって、守れなかったのは、申し訳ありませんでした」
「それは、Aがうっかり素手で熱い鍋を持って手を滑らせたから、って」
「でも、防げなかったし」
「……」
「腕に痕が残るかも……その責任、とらせてほしいって言ったら怒る？……お父さん」
「すまん、お父さんって呼ぶのやめてくれないか」
……なんてこと。
なんてこと言うのお父さん。
おにいちゃんが傷つく顔を思って胸がぎゅううっと苦しくなった。
「すみません……」
おにいちゃんの声に涙がじわっと込み上げる。
「お父さん！」
おにいちゃんの部屋に思わず入る。
びっくりしたみたいに私を見上げる二人。
床にぺたんと座ってるおにいちゃんと、椅子に腰掛けてるお父さんをサッと見て、お父さんを睨みつけた。
「酷いよ！なんてこと言うの！」
「A、お前聞いてたのか……」
「あたしたちのこと引き裂かないで、お父さん」
涙がポタポタ落ちた。
「A、あっちいってて」
おにいちゃんの優しい声がした。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年5月31日 0時
