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抱きしめたいのに、抱きしめられない、みたいなそんなもどかしい感じで、私に覆いかぶさってきた。動けない。
ずずず。
櫻井くんのおでこが、私のおでことぶつかった。
そのまま、私のこめかみに一瞬唇が触れる。
どきどき。
ここ職場だぞ？
明日から給湯室に入るたびにこれ思い出して大変なことになるぞ。
嫌なことがあるたびにここにきてこれ思いだして復活する自分が簡単に想像できる。
は！ダメだ！
「櫻井くん、ちょっと」
「ねえ、それ、誰？」
「ちょっと、まって」
「殴ってくる」
低くて甘い声でなんてこと言ってんの。
そりあえず腰砕けそう。砕ける５秒前。
「何を……」
「……俺のAさんを泣かすなよ……」
……はい、アウトー！
我慢の限界。足に来た。
今のセリフ、足に来た。
へなへなと、しゃがみ込む。
「……ん？Aさん？」
しゃがみこんで、私の顔を覗き込む。
「私を……泣かせてるのは、……お前だ！」
なんつー言い方。
照れ隠しに突き飛ばす。
「はあ？俺？」
体勢を崩して、ひっくり返った櫻井くんが間抜けな声を出した。
「お前だ！泣かせるのはお前」
「俺え？」
「バカ！」
「どっちが？」
「何をどう勘違いしてるかわかんないけど、あんたすっごい勘違いしてる！」
「勘違いってなんだよ！」
「わたしはねえ、もうずっと前から」
キイ。かちゃ。
さささささ。足音。これは大野くんだ。
思わず黙り込む私たち。
給湯室にしゃがみ込んだままの私たちを見下ろす、新係長。
「おわ！まだいたの！」
「うん、もう帰る……」
「……コーヒー飲みたいなって思ったんだけど、お取込み中？……ラブラブ？」
じっとり。にやにやされた。
「大野くん、ちょうどできたよ！自分でどうぞ！櫻井帰るわよ！」
「どこに！」
「晩御飯つきあいなさい！」
「パワハラだ！」
「ガタガタうるさい」
まだしゃがんだままの櫻井くんの首根っこを捕まえて無理やり立たせる。
大野くんが目をぱちくりさせた。
「おお、お疲れ……」
「はいお疲れ様でした」
「お疲れ様で……チーフ、離して、歩きづらい！ひっくり返る！」
あははは！っていつも笑い方の櫻井くん見て、なんだか力が抜ける。
手を離す。
「ってことは、昨日俺のこと思ってちょっとは泣いた？」
「……だったら何よ！」
「なら、許してあげよっかな」
櫻井くんのとびきりの笑顔の可愛いことといったら。
「可愛い」
「可愛いは禁止！」
櫻井くんが私の頭をぱこんって殴った。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年3月29日 21時
