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その夜。
残業してバタバタしてたら櫻井くんが、お先に失礼します、と言って帰っていった。
「お疲れ様……私も早く帰りたい……お腹すいたー」
なんて業務時間が終わったあとだらだらして軽口を叩きながら、コーヒー片手に企画書とにらめっこしてたら。
しばらくして、櫻井くんが戻ってきた。
「チーフ……あの」
「忘れ物？」
「いえ」
「どうしたの？」
むー。
口がむーってなってる。
かわいいよ。
かわいい。疲れも吹っ飛ぶさ。
うちの部署に櫻井くんを所属してくれた人事部長にほっぺにキスくらいならしてやってもいいくらいありがとう。
「手伝ってくれるの？」
「手伝いますか？なにかやること……」
「嘘嘘。もう手伝ってもらえるようなこと、何もないよ、お疲れ様」
「そうですか……」
うそです。
あります。
そこに座って、ニコニコ微笑みながら頑張って、って語尾にハートつけて応援してくれたらいつもの3倍は早く片付くわね！
なんて思いながらコーヒーをすすってたら、櫻井くんが、そっとコンビニの袋を私に差し出した。
「ん？」
「帰り際、お腹すいたーっておっしゃってたから……」
「……え？これ、私に？何？」
「良かったら、食べてください……」
袋の中には、昆布のおにぎりが！
「……え」
「好き、でしたよね？」
「……うん」
好きなのは櫻井くんだよ？
と唐突に思って、自分の想いをはっきり自覚した！
昆布のおにぎりキッカケに気づいた恋心！
日高昆布、110円。
なんだろ、泣きたくなった。
私この瞬間から昆布のおにぎりが大好物になったよ、櫻井くん。
「好き……」
「よかった！」
ぱあっ！と笑顔をみせた。
「係長は梅でしたよね？」
係長に梅のおにぎり、一緒に残ってた大野くんには鮭おにぎりを。
おしぼりまで。
「お手伝いないようでしたら、すみません、お先に失礼します」
ぺこ、っと頭を下げて櫻井くんが走り去った。
「かわいいねぇ」
係長がにこにこした。
「ねえ」
大野くんも。
「……」
可愛い、なんてもんじゃ無いよ。
殺人的に可愛いんだよ、櫻井くんは。
「Aは？櫻井くんどう？」
大野くんがニヤニヤしながら聞いてきた。
「女の子より可愛いとかありえなくない？」
「A、ああいうタイプ好きそう」
う。するどい。
「年下とかないない！」
「そうなの？」
「私のタイプは課長！」
「はいはい」
大野くんと軽口を叩きながらおにぎりを頬張る。
美味しい。
頬が、緩む。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年3月29日 21時
