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社内恋愛は楽じゃない。
秘密にしなければならない関係なら、とくに。
まずったなぁ、って思いながら３つ後輩の櫻井くんの背中を見る。
やばいよね？これ。
なんでこんなことになっちゃったんだ。
櫻井くんはかなり仕事ができる子だ。
そのせいで彼に対する期待から、本人も持て余すほどの仕事量を与えられる。
櫻井くん以外の子にお願いしたら、つまんない質問にまで答えなきゃならないのも、理由の1つだけど。
なぜ「2013年の○○株式会社の予算はどこで調べればいいんですか？」と聞いてくる？
そこの棚に会社ごとに並んでるファイルが目に入らないの？
「先輩は関連会社の予算、全部PCのデータに入ってるんですよね？それを借りたら時短だと思うんですけど」
は？キミを楽にするために私が苦労して予算を打ち込んだわけじゃないんだけど？
たった数年前に生まれただけの後輩の宇宙人ぶりに目を白黒させる日々の中、櫻井くんはオアシスのようだった。
『この10社の予算と実績……去年の4月の月次決算を部門ごとに比較して表にしておいて。明日の朝の会議までね』
課長の言葉に、櫻井くんは「はい」と良い返事をして、棚に飛んでいって両手に10冊のファイルを抱えた。
ヨロヨロしながら自分のデスクに向かい、素早くファイルをめくり、ぎこちなくキーボードをたたいてる。
なるほど。ファイルが雪崩起こしそうなのを支えながらやってるからね。
会議の資料はてっきり自分に回ってくると思い込んでたから、拍子抜けした。
櫻井くん期待されてるから、そういうこともやらせたいって計らいなんだろう。
でも明日の朝の会議の資料を帰ろうとしてる櫻井くんに頼むなんて。
「櫻井くん、そんなふうにやってたら終電までに間に合わないわよ？これ使ったら？」
USBを渡してあげたら、拝見していいですか？って両手で受け取った。
肘でファイルを支えてるから体が傾いてる。
小動物みたい。
データを開いて、櫻井くんは丸い目をもっとまんまるにした。
「資料、これ殆ど出来てる……」
「私も櫻井くんくらいの頃、会議の資料頼まれてね、そうやって残業してアタフタしてたら、今の課長が内緒だぞってデータくれたの」
「……かっこいい」
「それあげる、コピーしたやつだから、どうぞ？」
「……いいんですか？」
「みんなには内緒よ？」
櫻井くんが、ふわぁって笑った。
「はい！」
可愛い。
胸がズキュンと撃ちぬかれた。
やられた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年3月29日 21時
