77、大切な人(6/16) ページ7
「ほんとはね、もう放置しておいてやろうかって思ってたんだけど」
オトナの和がとんでもないことを言い出した。
「ひど！」
「可愛いAに会いに来たの！」
なんだか軽薄。
ちょっと不審顔。
「そのね、ちょっと軽蔑するみたいな顔も可愛いから勘弁して！」
うわああ。デレデレが酷すぎる。
全員絶句したまま。
「ふたりで話したいんだけど」
「みんなの前がいい」
「あ、そ。警戒されてる、俺」
くすくす笑う、和。
「お前なんで未来に帰ったんだって思ってるでしょ」
オトナの和が、和に声をかけた。
「あのさ、Aって、すっごいおばあちゃんっ子だって、お前まだ知らないよね」
「……気付いてるけど」
和が、呟く。
「あれ、そうだっけ？」
「しょっちゅうばあちゃんちに泊まりに行くって、言ってるじゃん」
「ああ、そっか。A、ばあちゃんがね、階段から落ちちゃったって、俺の誕生日の前日、……つまり、未来に行った日にね、連絡あるよ」
「……え！」
おばあちゃんが！
階段からおちた？
「え？ええ？それほんと？」
「うんほんと。いいの？未来に残っちゃって」
「……え」
おばあちゃんが。
階段から。血の気が、引く。
「ね、おばあちゃん、大丈夫なの？」
「命に別状はないよ、けど腕の骨と腰？折れちゃって。あと、頭も打ったから、検査？」
「……」
「手術するって。入院することになる」
そうだ。
私、夢中で、和さえ居ればって思ってたけど。
違う。
私が未来に残るってことは。
私が赤ちゃんのときから、大事に大事に育ててくれた、たくさんの人を無視することになるんだ。
現実世界から、消えるってことは。
愛してくれたたくさんの人を裏切るってこと。
家族や、親友や。
昨日のことみたいに、私が、ママって言うより先に、あーたん、って言ったのよ、って喜んでくれるおばあちゃんを。
私が中学校の制服を着たとき、こっそり泣いてたお父さんを。
どんなときもどんなときも、自分のことより私を優先してくれたお母さんを。
たくさんの、友達の笑顔も、浮かんで消える。
「Aは過去に戻すよ、どんなことがあっても」
「……」
「あんなのと駆け落ちして、幸せになれると思ってるの？」
オトナの和が、自分の背中をチラッとみて、言った。
「身分証もなんもないから、まともに働く場所もない。家を借りることだってできないんだよ、身分証がないからね」
和があはって、笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - おお。当たってました❗よしのさんの小説、色々違うお話を書かれてるので凄い尊敬します。もう感情移入して泣いてますよ。これからも色んなお話を楽しみにしています💕 (2021年10月4日 18時) (
レス) @page33 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - こんにちは。予想ですがカズは俳優になって主人公と結婚してると思います。絶対！ (2021年10月4日 16時) (レス) @page4 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ - 高校生の時この作品に出会って、心動かされて24歳になってふいに夢に似たようなシーンが出てきて読み返しました。何度読み返しても素敵な作品。もう一度こんな気持ちにさせてくれてありがとうございます。 (2020年10月2日 21時) (レス) id: 7bf8bcbcd4 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - 大切な、前へ進むための力強いメッセージ。まさに、今のわたしに、また読み返してほしかったんです。将来、オトナになるとき、絶対また読んでほしいと当時おもっていました。消さないで置いていてください。そして改めてこんな面白くてステキな作品ありがとう (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - キノキミ、No.1で好きな作品です。久しぶりに読み返せました、開放ありがとうございます(涙)そして二宮サン天才外科医役！(；▽；) (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年6月14日 8時
