85、迷いと不安 ページ15
そこに、平居先生が、慌てて準備室に入ってきた。
「ああ、いたいた。呼び出したのに！」
私の顔をみて、先生が慌てたように、言う。
「おばあちゃんが大怪我をしたらしくて、今から家族全員病院に行くから迎えに行くって、ご両親から連絡あったぞ」
「……あ！はい！」
ああ、やっぱり、ほんとだったんだ。
慌てて、帰る用意をして、カバンを抱きしめる。
「A」
和が、私をじいっと見た。
「なに？」
「……また明日」
「うん」
慌てて、階段を駆け下りて、上靴を脱ぐとき。
上靴が、酷く汚れてることに、気付いた。
ああ、上靴のまま外に出たからだ。
ということは。
制服のスカートのポケットに手をいれたら。
かさり。音がした。
取り出したら、オトナの和から、もらった、手紙。
ああ、ほんとだったんだ。
夢じゃなかったんだ。
これ。
この手紙。
玉手紙、とか言ってた。
結婚式の当日まで絶対見ないでね、って言ってた。
とりあえず、それをカバンに仕舞って、校門に走っていく。
門から振り返って、４階の音楽室を見上げたら。
和がこっちを見てる。
どれだけ遠くにいても、分かる。
あれは、和だ。
私が、10年後も、ずっとずっと変わらず愛してる、大切な人。
車に乗り込んで、カバンをぎゅうっと抱きしめた。
私、帰ってきちゃったんだ。
ということは。
天才外科医の旦那さんを選ぶ未来に向かって歩き出したんだ。
和だって、可愛いワイフが待ってるとか言ってたし。
なんて残酷な世界なんだろう。
窓の外を見ながら、こみ上げる涙を飲み込む。
駄菓子の蜻蛉屋さんのおばあちゃんが、打ち水をしていて、
自販機のペットボトルは、200円ではなくて、
遠くに見えるスーパーの名前は、まだ変わっていない。
夢はまだ遠くて、
将来のことを考えたら足がすくんで、
まだ迷いの中にいる。
夏が永遠に続くと、私はまだそう思ってて、
来年の夏なんか、まったく想像もできなくて。
怖くて、毎日が楽しくて、それを失うことが怖くてたまらなくて、
そして、それを失う日が、刻一刻と近づいてる。
泣きながら、誰かの奥さんになって、なのに、今でも愛してるよ、和って。
他の人じゃなくて、和が私を消してって言えるほど想ってるのに、
『Aのこと、幸せにしてもいい？』
って言葉に、号泣してるのに、
私、どうなっちゃうんだろう。
不安で、胸が押しつぶされる。
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やっち(プロフ) - おお。当たってました❗よしのさんの小説、色々違うお話を書かれてるので凄い尊敬します。もう感情移入して泣いてますよ。これからも色んなお話を楽しみにしています💕 (2021年10月4日 18時) (
レス) @page33 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - こんにちは。予想ですがカズは俳優になって主人公と結婚してると思います。絶対！ (2021年10月4日 16時) (レス) @page4 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ - 高校生の時この作品に出会って、心動かされて24歳になってふいに夢に似たようなシーンが出てきて読み返しました。何度読み返しても素敵な作品。もう一度こんな気持ちにさせてくれてありがとうございます。 (2020年10月2日 21時) (レス) id: 7bf8bcbcd4 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - 大切な、前へ進むための力強いメッセージ。まさに、今のわたしに、また読み返してほしかったんです。将来、オトナになるとき、絶対また読んでほしいと当時おもっていました。消さないで置いていてください。そして改めてこんな面白くてステキな作品ありがとう (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - キノキミ、No.1で好きな作品です。久しぶりに読み返せました、開放ありがとうございます(涙)そして二宮サン天才外科医役！(；▽；) (2020年2月19日 1時) (レス) id: 61dd42d003 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年6月14日 8時
