６、指輪 ページ6
「それは、どっち？彼氏？旦那さん？」
「えっ？」
「指輪。旦那さんじゃないよね、名前を呼ばれないってことは。彼氏に名字で呼ばれてんの？それとも、それは、ただの飾り？」
指輪。
お揃いの、指輪。
「……」
『Aずっと一緒にいような』
そう言ってくれた、彼の声は。
どんな声だった？
あれ？
『早く忘れた方がいいよ』
『彼だってきっとAちゃんが幸せになって欲しいと思ってるはずだよ』
ちがう、この声じゃない。
思い出さなきゃ。
『雨、嫌い？』
『人生の９割傘いらない』
この声は大野さんの。
「Aちゃん？」
「……」
「Aちゃん、どうした？」
足が、止まる。
動けない。
わたし、忘れようとしてる。
酷い目眩に襲われる。
「Aちゃん！」
しゃがみこもうとした私の腕をぐっと引っ張って、心配そうに眉を寄せた大野さんの顔が見える。
滲んで歪んで、
ね、もしかして。
ゆうくんが、迎えに来てくれた？
「ゆうくん？」
「……」
長い沈黙の末に、その人は言った。
「智くん、だよ？」
「……」
「ゆうくんじゃないよ、智くん。立てる？」
「……立てる」
「歩ける？」
「……うん」
「……貧血？かお、真っ青」
「……いえ、すみません……」
「寄りかかって、いいよ。……ん」
そう言って、私の腕を、自分の腕に巻き付けるようにして、これでよし、って呟いた。
「すみません……」
「時間、まだあるかな。……こっち」
そう言って、会社に続く道を外れて、近くのコーヒーショップに入る。
「座って。なに飲む？」
「……あ、」
声が出ない。
今の言い方似てた。
……だれに？
「……待ってて」
大野さんが、両手にコーヒーのカップを持って現れた。
「カフェオレとブラック。どっち？」
「カフェオレ……」
「ん」
大野さんが、目の前にすとん、と座って窓の外を見る。
綺麗な横顔。
よくみると、大野さんって美形。
ふわふわの雰囲気に騙されてた。
「ゆうくんってだれ」
「彼氏です」
「ふーん。名字で呼ばれてんの？」
「いえ、Aって呼ばれてました……」
「呼ばれてました？」
「もういないから」
「え？別れた？」
聞きづらいようなことを平気で聞く。
嫌な感じは、しない。
「亡くなったんです。５年前。こんな雨の日」
大野さんが、ふ、と目を上げた。
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なるちゃん(プロフ) - かぁ〜〜 うまい！！ はたと膝を打つ展開が気持ちよ過ぎる！ 出てくる人がみんな誰かに優しくて泣けてきます。 (2018年2月27日 9時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - よしのさんの作品は…愛が溢れていて拝見していてホッとしながら心が癒されます(o^O^o)処女作品からここまで…よしのさんの魅力にはまってちょっとでも時間を見つけてはよしのさんワールドに入り浸りの毎日です(笑) (2017年9月10日 9時) (レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ウサウサ - 三毛猫はオスじゃなくてメスしかいないんですよ (2017年7月20日 22時) (レス) id: 6d9c777ab6 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - よしのさんの作品すごく好きです。いろんな解釈があって、何度か読むことによって気づくことも多い。いろんな表情があって、この作品大好きでした。わたしの解釈は、ねこってもしや元彼なんじゃないの？とかなんですけど、それだけで泣きたくなりました。 (2016年11月29日 1時) (レス) id: 4230ec427c (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - よしのさんほんとにすごい...こんな世界観を書けるのはよしのさんだけだと改めて思いました。またお気に入りの作品が１個増えました。雰囲気のある作品で、ひとつひとつの情景が目に浮かぶようでした。いつもありがとうございます、！ (2016年7月5日 1時) (レス) id: 9fafcdfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作成日時：2014年5月19日 23時
