38、面影[side Satoshi] ページ38
その翌日も、雨。
けど、今日は直行直帰。
だから、会わない。
ふられたばっかだから、都合がいいような、悪いような。
夕方ごろ、翔ちゃんから、ラインでメッセージが来た。
『経理さんが大野さんは？って聞いてきたよ
最近、経理さんにモテてんの？』
うーん。むしろ、ふられてる。
『いや、雨の日の傘になってくれてんの』
『だからか！今日傘いらなかったの？
って心配してきたんだな、なるほどね』
俺のこと、気にしては、くれてんだな。
ゆうくんの、代わり？
いてて。胸がきゅーってなったんだけど。勘弁して。
今日は、直帰する予定だったけど、予定より早く終わって、
残った仕事をやっつけようと会社に向かって、走ってたら。
定時で上がる、Aちゃんを、見つける。
また泣いてる？
どうせなら涙流せばいいのに。
「Aちゃん」
「大野さ……」
「どうしたの」
駆け足のまま、Aちゃんの傘に入る。
顔を覗く。
「やっぱり、泣いてる」
「……」
「泣いてる気がした」
「どうして、雨の日にしか会えないの？」
いや、それは、ほんと偶然っていうか。
「……」
「ゆうくんのこと、忘れそうなの。どうしよう、忘れないって誓ったのに！」
「……うん」
それは仕方ないこと。
人は、忘れるようにできている。
生きてるんだから、仕方ないんだ。それは。
「大嫌いな雨の日を待つようになったの、大野さんに会えるかなって。でもね、そうしたら、今度は晴れてても寂しいの」
「……」
「ゆうくん……」
ああ。なんて、悲痛な、声。
なんとかしてあげたいんだけど。
ひとつだけ、方法があるけど、それは。
いいか。もういい。
ふられたんだし。
Aちゃんは、何回も、見間違えた。
おれと、ゆうくんを。
いいよ、なったげる。
ゆうくんに、なったげるよ。
それで、ちょっとでも救われるんなら、
おれも、すこしは、Aちゃんの傘に、なれるかなあ。
「A」
Aちゃんの目の中に、戸惑い。
「幸せに、なってもいいんだよ？」
おれの目の中に、探す。
ゆうくんの面影を？
「俺のこと忘れないでね、でも、幸せになるんだよ、ね？わかった？」
Aちゃんの、目が、かくかくって揺れて、俺の腕をぎゅううって握り締めた。
痛いくらい。
「……ゆうくん？」
「……ん？」
「ゆうくん？ほんとはゆうくんなの？」
ゆうくんじゃなくて、ごめんね。
「さよなら」
それだけ言うのが、精一杯で。
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なるちゃん(プロフ) - かぁ〜〜 うまい！！ はたと膝を打つ展開が気持ちよ過ぎる！ 出てくる人がみんな誰かに優しくて泣けてきます。 (2018年2月27日 9時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - よしのさんの作品は…愛が溢れていて拝見していてホッとしながら心が癒されます(o^O^o)処女作品からここまで…よしのさんの魅力にはまってちょっとでも時間を見つけてはよしのさんワールドに入り浸りの毎日です(笑) (2017年9月10日 9時) (レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ウサウサ - 三毛猫はオスじゃなくてメスしかいないんですよ (2017年7月20日 22時) (レス) id: 6d9c777ab6 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - よしのさんの作品すごく好きです。いろんな解釈があって、何度か読むことによって気づくことも多い。いろんな表情があって、この作品大好きでした。わたしの解釈は、ねこってもしや元彼なんじゃないの？とかなんですけど、それだけで泣きたくなりました。 (2016年11月29日 1時) (レス) id: 4230ec427c (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - よしのさんほんとにすごい...こんな世界観を書けるのはよしのさんだけだと改めて思いました。またお気に入りの作品が１個増えました。雰囲気のある作品で、ひとつひとつの情景が目に浮かぶようでした。いつもありがとうございます、！ (2016年7月5日 1時) (レス) id: 9fafcdfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作成日時：2014年5月19日 23時
