36、来ないで[side Satoshi] ページ36
あ、もう、間に合わない感じ。
「あぶなっ」
取り合えず、Aちゃんを抱えこんで、飛んできそうな方向から逃す。
そのとき、自分の足が、水溜りらへんに残ったままになったのは、
どうしようもない。
ずぶぬれ。
「大野さん、大変」
「いいの。Aちゃん、大丈夫？」
「はい、」
おれの腕ん中で、ぎゅうって、ジャケットを握り締めて小さくなってるAちゃん。
おれの片腕の中にすっぽり入ってる。
あ、丁度なんで、これ貰います、ってくらいぴったり。
Aちゃんがほっぺを赤くして、慌てておれの腕の中から飛び出す。
そんな飛び出し方したら、濡れる。
もういちど、引き戻す。
「え？」
「雨にあたるでしょ」
なんて。逃げないで、なんてね。
「大野、さん」
「ん？」
「営業部に行ったら、会えますか？」
「どうだろ、わかんない」
「社内で会わないから……」
「そうかな」
「会いに行ってもいいですか？」
「どして？」
「ドライヤーで、スーツ乾かします！ロッカーにドライヤーおいてるの！私猫っ毛で、雨の日とか酷いことになったら髪乾かすの」
真剣な顔で、手をぐーにして、おれを見上げて、言う。
こんな掘り出し物みたいなAちゃんを、ハイエナ揃いの営業のやつらに見せてたまるか。
「来ないでね？」
「来ないで……？」
「うん。来ないでね」
あいつらは、いいの。
ニノなんか、彼女に相当骨抜きにされてるし、
翔ちゃんは今は女より仕事の方が楽しくてそれどころじゃないみたいだし、
相葉ちゃんも松潤も、Aちゃんみたいなのは好みじゃなさそうだし。
問題は、それ以外。
女を食って捨ててなんぼ、何人斬りとか言ってるバカしかいねーのに。
ちょっと悲しそうに見えるのは、気のせい。
だって、
Aちゃんは。
俺見て、何回も、ゆうくんって呼ぶ。
ゆうくん、もういないんでしょ？
おれ、ゆうくんじゃないよ？
代わり？
元気になるんなら、代わりでもいいけど。
けど、でも、もう新しい一歩を踏み出さないと。
似合わない黒い服と、左手の指輪。
雨の日は、モノクロの世界に行く君が。
心配で、目がはなせない。
「大野さん……」
「ん？」
「猫みたい」
「だって、猫だもん」
あの、三毛猫。
あいつになりてえ。
そしたら、Aちゃんが泣くたびに、側に行って、
泣くなよって、肉球でぷにってしてやんのに。
……なんてね。
泣きたいのは、おれの方。
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なるちゃん(プロフ) - かぁ〜〜 うまい！！ はたと膝を打つ展開が気持ちよ過ぎる！ 出てくる人がみんな誰かに優しくて泣けてきます。 (2018年2月27日 9時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - よしのさんの作品は…愛が溢れていて拝見していてホッとしながら心が癒されます(o^O^o)処女作品からここまで…よしのさんの魅力にはまってちょっとでも時間を見つけてはよしのさんワールドに入り浸りの毎日です(笑) (2017年9月10日 9時) (レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ウサウサ - 三毛猫はオスじゃなくてメスしかいないんですよ (2017年7月20日 22時) (レス) id: 6d9c777ab6 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - よしのさんの作品すごく好きです。いろんな解釈があって、何度か読むことによって気づくことも多い。いろんな表情があって、この作品大好きでした。わたしの解釈は、ねこってもしや元彼なんじゃないの？とかなんですけど、それだけで泣きたくなりました。 (2016年11月29日 1時) (レス) id: 4230ec427c (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - よしのさんほんとにすごい...こんな世界観を書けるのはよしのさんだけだと改めて思いました。またお気に入りの作品が１個増えました。雰囲気のある作品で、ひとつひとつの情景が目に浮かぶようでした。いつもありがとうございます、！ (2016年7月5日 1時) (レス) id: 9fafcdfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作成日時：2014年5月19日 23時
