２、嫌い？ ページ2
「おはよう」
柔らかい、優しい声。
「……」
「傘、入れてくれんの？」
「……え？」
「事務の子でしょ？」
「……」
「あれ？ちがった？ごめん」
その人は、ふにゃあ、って笑った。
「えっと？」
「営業の、大野っていいます」
ああ、名前は、知ってる。
すっごい出来る人って聞いてたから、もっと怖そうな人かと思ってた。
「傘、忘れたんですか？」
「違うよ、傘持たない主義」
そう言って、ふんわり笑った。
お日様みたいに。
「よかったら、どうぞ」
「助かったあ」
そういいながら、入ってくる。
「走っていこうかと思ったんだけど」
「はい」
「これ」
そう言って、何か筒みたいなものを、見せる。
「これ、なんですか？」
「絵」
「絵？買った、とか？」
「描いた」
「すごいですね」
そう言ったら、ふっと笑う。
「見てねえのに」
「描けるってだけでもすごいです、私全然」
「すごくないよ」
「すごいです」
「じゃ、すごいってことにしとこ。翔ちゃんにも言われるけど」
「櫻井さん？」
私が聞いたら、ちょっとびっくりしたみたいに、言う。
「翔ちゃんは、知ってんだ」
「名前だけ……」
「珍しいね、名前だけ知ってるってのが」
「人事のお手伝いしてますから……給与とかの計算も」
「あ、それでか！」
「櫻井さんは、すごい勢いで昇格してますし」
ちょっと笑っていったら、大野さんもふふって笑った。
「傘持たない主義なんですか」
「うん。だって、雨って一日中降ってないことの方が多いでしょ」
「……そうですね」
「ひとつきに、３回くらい？雨の日って」
「そんな少ないかな……」
「で、駅から会社までの距離で雨に濡れる確率とか考えたら、人生の９割以上は傘いらない」
「……」
「しかもね、翔ちゃんなんて超晴れ男」
「晴れ男？」
「翔ちゃんが外にいる間は雨降らない……だから多分今もう会社についてるぞ、翔ちゃん」
大野さんがふふふって楽しそうに笑った。
「いいな、私も、晴れ女になりたかった」
「雨、嫌い？」
大野さんが、私を見下ろした。
一瞬、ゆうくんが隣にいるような、錯覚がして、
ぐらり、と視界が揺れた。
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なるちゃん(プロフ) - かぁ〜〜 うまい！！ はたと膝を打つ展開が気持ちよ過ぎる！ 出てくる人がみんな誰かに優しくて泣けてきます。 (2018年2月27日 9時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - よしのさんの作品は…愛が溢れていて拝見していてホッとしながら心が癒されます(o^O^o)処女作品からここまで…よしのさんの魅力にはまってちょっとでも時間を見つけてはよしのさんワールドに入り浸りの毎日です(笑) (2017年9月10日 9時) (レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ウサウサ - 三毛猫はオスじゃなくてメスしかいないんですよ (2017年7月20日 22時) (レス) id: 6d9c777ab6 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - よしのさんの作品すごく好きです。いろんな解釈があって、何度か読むことによって気づくことも多い。いろんな表情があって、この作品大好きでした。わたしの解釈は、ねこってもしや元彼なんじゃないの？とかなんですけど、それだけで泣きたくなりました。 (2016年11月29日 1時) (レス) id: 4230ec427c (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - よしのさんほんとにすごい...こんな世界観を書けるのはよしのさんだけだと改めて思いました。またお気に入りの作品が１個増えました。雰囲気のある作品で、ひとつひとつの情景が目に浮かぶようでした。いつもありがとうございます、！ (2016年7月5日 1時) (レス) id: 9fafcdfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よしの
| 作成日時：2014年5月19日 23時
