21.徒花 ページ24
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「んっ」
押し付けられた唇は熱くて、少し強引だったからか、Aの高くも低くもない声が漏れる。
接吻などAの仕事上どうてことはないのだが、Aにとってそれは、特別に感じていた。無論、亜簾にとっても特別である。
亜簾は空いている片方の手で、Aの帯を解いた。そのとき、不意にAはぴくりと動いてしまった。亜簾はハッとして、唇を離し手を戻した。
「悪い、…」
自分がまさか、これ以上をしようと思っていることに驚いた。
亜簾はいたたまれない気持ちになって、立ち上がり、帰ろうとする。
「……なんだ、帰るのか。続きはいいのか?」
Aは帯が解かれていたのを直しながら、口角を上げて言った。亜簾が帯を解いた所為で、艶のある白い太ももや胸元が妙に理性を擽る。
「俺はそんなことを華永野としたいわけじゃない…!」
動揺を隠し切れず、思いの外声が大きくなってしまった。Aは、面食らったような顔をすると、寂しいような悲しいような可笑しい顔をして笑った。
「そうか。またな、亜簾様」
亜簾はなんとも言えない顔で、何も言わずに座敷を出ていった。
Aは、亜簾の言葉をやはり考えていた。そして、そんなこと、か…と自嘲するように笑った。
「やっぱり、な。夢は見すぎるものじゃないな」
亜簾は髪を掻き乱しながら帰路についた。
「あれじゃあ…母親と同じじゃねぇか…」
ただ、目の前のAに夢中になって、愛しくて仕方なくてもっと触れたいと思ってしまう。誰も知らないAを見たくなった。
「A…」
もし、続けてもAは亜簾を拒まなかっただろうか。Aは拒まないだろう、と亜簾は思った。こんな、雰囲気に流されてもAにただの接客と思われるだろう。亜簾としては、どうしても母親の所為で行為に嫌悪感を抱いていた。
「…どうしたらいいんだ」
「ねぇねぇ!見て、この玉きれい!」
「えぇ!いいなあ、みせて!」
亜簾の重苦しい雰囲気とは逆に、明るい子供たちの声が亜簾の耳に入る。群れになって、何かに興味を持った子供たちはわいわいと騒いでいたが、次第に喧嘩をし始めた。
「ぼく、ほしい!!」
「だめ!おれがさいしょにみつけたんだ!」
「いじわる!!」
ついには、泣き出す声まで聞こえて、流石に亜簾は放っておけなくて、子供たちへと駆け寄った。
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年2月16日 22時