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12.雪月花 ページ15

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「はぁ」

 亜簾は、淀屋にいた。最近の流れなら吉原に行くところだが、気が乗らない。理由は簡単だ、Aに振られたからだ。どんな顔をすればいいのか、何を言えばいいのか。というか、もう嫌われているとか。
 気付けば、周りの空気まで重くするのではないかというほど、大きな溜め息しか出てこない。

「どうした、亜簾。今宵は行かんのか」

 淀屋の主人。橋衛門が、頬杖を付きながら酒をちびちびと飲む亜簾を見て、珍しいと思い、亜簾の隣に腰を下ろしてそう言った。

「振られた」

「そうか、お前にも振られることはあるか。ははっ」

 他人事でしかない橋衛門は笑った。が、すぐに顔を変えた。

「諦めるか?」

「…」

 未練たらたらで結局Aのことを諦め切れていない。
 だが、Aの一瞬の紅潮した顔(心からの感情)を見ると、もしかしたら、という愚かな期待が生まれる。

「まぁ、どちらでもよい。お前に縁談の話がある」

「縁談…」

 見合いだ。恐らく、会ったところで成立はしないだろう。自分の性格がこうだから。
 しかも、好いた者がいるのに。
 橋衛門は、黙る亜簾の頭をガシガシと触るとにいっと笑った。

「まぁ、ゆっくり考えるといい」

 翌日、亜簾は淀屋で少々の仕事を終えてから自室に若葉が入ってきた。何かいつもより洒落ているように見えた。

「亜簾様、呉服屋いくのですが御一緒にどうですか…!」

 特に断る理由もない。この時間は吉原に行くようだが、まだ気が向かない。
 それにしても、若葉は元々一緒に行くつもりだったように見える。親父様に頼まれても、いつも同じような着物だ。

「いいよ」

 亜簾の返事は驚くほど、柔らかい声色だったと思う。嗚呼、それほど自分は弱っているのか。この初めての恋情に。

「で、なんで呉服屋」

「旦那様が私に好きなものを買ってきなさい、と申されたので。
 あ、亜簾様に選んで頂きたいんです…!」

「ふぅん、俺にね」

 そこまで、さらけだされると気付かない者などいるのだろうか。もしかしたら、自分もAに対してそうだったのか。
 遠く、吉原を見つめた。




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設定タグ:名前変換オリジナル , 吉原 , 男主   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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Ria。(プロフ) - 初めて見たのですが、、ッ好きすぎます。尊すぎます。こんな尊い小説があってもよろしいのでしょうか。ええ、もちろんあってよろしいです。この素晴らしい小説に出会えて良かったです!! (2022年4月29日 18時) (レス) @page46 id: 6d33a476b4 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 藤雲ルアリナさん» あああ!お喜ばれる小説を書けていたようでとても嬉しいです!やる気でますね……頑張りますね! (2020年4月8日 15時) (レス) id: fe109e5f3f (このIDを非表示/違反報告)
藤雲ルアリナ - 世界観、空気、文体、ストーリー、もう何もかも好みです!毎回更新楽しみにしてます! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 3165ea2c89 (このIDを非表示/違反報告)
大手裏剣(プロフ) - 氷浦メグさん» ひえぇっありがとうございます泣 これからも暇潰しにでも覗きに来てください… (2020年3月13日 17時) (レス) id: 54569fedb3 (このIDを非表示/違反報告)
氷浦メグ(プロフ) - 初見です。尊いですありがとうございます! (2020年3月13日 13時) (レス) id: 3357bae399 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛之助 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/  
作成日時:2019年2月16日 22時

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