最後の恋 (ページ43)

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岡野「…A」

『…分かってる、偶然だよ、ただの』

同じ靴を買って、同じ日にその靴を履いて、ただの偶然だと思うのに、

もし自分だったらと思うと怖い

もしドクヘリの中で蘇生に成功しなかったら？

もし交通事故で即死していたら？

岡野「結婚間近の婚約者がいるらしいよ、さっきの女の子

ICUの入り口で声出して泣いてる男がいてさ、ICUの看護師が教えてくれた、

プロポーズするつもりで指輪持ってんだって」

本当なら今頃、幸せの絶頂にいる2人が今をどう思うのだろう

彼女は意識がなくて、オペは成功したけど今夜を乗り越えられるか保証はない

もしわたしだったら？

わたしが事故に会ってたら、翔くんはどうするのだろう？

彼女の彼と同じように隣で泣いてくれるのだろうか

手を握ってわたしが目を覚ますのを待ってくれるのだろうか

岡野「一寸先は闇じゃないけどさ、次の瞬間自分がどうなるかなんて分かんねえよな？

おまえも気を付けて帰れよ」

『…うん、ありがとう』

〈自分がどうなるか分からない〉まさにその通り

明日も生きているという保証はない

今日の帰りに何か起きて永遠に会えないかもしれない

「今度メシ食いに行こうよ」

翔くんの言う今度っていつなんだろう？

その日までわたしが生きている保証はある？

prrr prrr prrr prrr

この日、初めて翔くんに電話を掛けた

いつもは仕事中だと悪いから、忙しいから、

自分に言い訳してたけど、今はそんな事考えられなかった

「もしもし？」

『っ、翔くん？』

「ちょ、A泣いてる？どうしたの？」

『っ…ふっ…』

翔くんの声を聞いた瞬間に、涙が溢れて来る

「どうした？何かあった？」

『翔くん、』

「うん、どうした？」

『…会いたい』

「…うち来れる？」

急いで着替えて病院を後にする

パンプスが足に合わないとか、そんなのはもう頭にはなかった

数週間前に来て以来の翔くんのマンション

もらったカードキーでエントランスを抜けてエレベーターに乗る

走ってるせいかエントランスの守衛さんに不思議そうな顔をされたけど、気にならなかった

翔くんの部屋の鍵を開けて玄関に入る

「A？」

リビングへと続くドアから部屋着姿の翔くんが出て来る

『翔くん！』