最後の恋 (ページ38)

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思わぬ翔くんの本音に返す言葉がない

だって翔くんのマンションに行くのは意図的に避けてるから

夜にたった1回行っただけで分かる、

あのマンションはわたしみたいな普通の人が行くのは釣り合わない

もし、わたしみたいな女が翔くんの部屋に出入りしていると知られたら、翔くんの評価を下げちゃうんじゃないかとか考えて、

そして何より、翔くんと自分との住んでる世界の違いを見せられてるみたいで辛い

きっともう一度行ったら、自己嫌悪が止まらなくなるんだろうという気がしてる

『ごめんなさい』

「別に謝ることじゃねえけどさ、

俺が会いに行く時間作れてねえのが現実なんだし」

『翔くんの方が忙しいんだから、それは仕方ないよ』

「〈忙しい〉って都合の言い訳にしたくないんだよ」

たしかに「忙しい」と言われれば、なら仕方がないと無理にでも納得せざをえない

それが分かってるから翔くんは忙しいと口にしない、少なくともわたしの前では。

「今後、メシ食いに行こっか」

『そんな時間あるの？』

「俺だってメシぐらい食うよ」

『ふふ、確かに、それはそうだね』

「どっか空いてる日ある？」

『うーんとね、勤務表、勤務表…

あとでメールで送ろうか？』

「そうしてくれる？

合いそうな時間見つけて連絡するよ」

『うん、待ってるね』

電話を切った後に思う

わたしはともかく、翔くんは本当に忙しいから、時間を合わせてご飯に行くのは相当難しいと思う

だから翔くんは初日に合鍵を渡してくれたんだろうな

『…本当に頭良いよね』

障害が多い事なんて分かってたんだからと自分を鼓舞する

他の人からしたら、彼氏の家の行くぐらい障害でも何でもない

むしろ家に行けて幸せだと思わなくちゃっと自分に言い聞かせながら眠りに就いた

pipipi pipipi pipipi

アラームの音で目が覚める

カーテンの向こうが明るくないから、今朝は曇りなんだと寝起きの頭で今日の天気を予想する

『んーー』

ゆっくりと背伸びをして起き上がる

仕事に出ようと玄関に来て足を止める

昨日履いていたスニーカーが置いてある

最近のお気に入りだけど、いつも一緒なのもなぁとシューズボックスを開ける

『これにしよ』

買ってから数回しか履いてないパンプスを履く

普段あまり履かないからか、ヒールを履くと途端に良い女になった気分にしてくれるから好き