最後の恋 (ページ32)

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あれだけ俺の事を『櫻井さん』と呼び続けていたのに、彼女の口から初めて出た『翔ちゃん』呼びにキュンとした

それと同時にやっぱりこの子だなと思う

「そろそろ……俺と付き合ってみない？」

脈があるとか無いとか、店に着くまでは頭ん中がグッチャグチャになるぐらい色々考えたのに、いざAちゃんを目の前にするとシンプルな言葉しか出て来ない

言われた本人はかなり驚いているみたいで、その表情すら可愛いと思うんだから、自分で思ってる以上に惚れてたんだなと冷静に考える自分がいる

本当なら「返事は今度で良いよ」なんてかっこ良い事を言ってあげるべきなんだろうけど、俺にそんな余裕はない

「ごめんね、返事は今度会う時でいいよなんて優しい言葉も言えなくて」

Aちゃんは賢い、きっと俺と付き合う事で自分がどんな環境に置かれるのかを考えてるのかもしれない

俺みたいな職業の男を恋人にすれば幸せを感じるより苦労の方が多い

人前で2人並んで歩く事は許されず、友だちに紹介する事だって出来ない

週刊誌にはある事ない事を書かれて嘘と現実の判別が出来なくなっていく

でも、頼むから、目の前にいる俺を信じて欲しい

『わたし、櫻井さんの彼女になれますか？』

誓うよ、絶対に俺が全力で守るから

「なってよ、俺の1番大事な女の子になって」

俺の気持ちが伝わるようにAちゃんの細い指先を守るようにギュッと包み込む

『よろしくお願いします』

その言葉と同時にゆっくりと握り返された手に幸せが込み上げてくる

「そろそろ出る？」

手を握ったままの俺にAちゃんは苦笑い

まぁ…言葉と行動が一致してないからね

「明日なんか予定ある？」

『週末は休みで、特に予定は入れてないので』

「じゃあ、うちに来る？」

『……』

「来るっつうか、来て」

『いいんですか？』

「いいよっつうか誘ったの俺だし」

家に来ることを納得しても、2人一緒には帰れないのが悔しい

Aちゃんに俺のマンションの住所をメールで送って、先に店を出る

「1人で大丈夫？」

『わたしのこと何歳だと思ってるの？』

「心配してんだよ」

『大丈夫です』

すぐまた会えるのに名残惜しくて手を離せない

Aちゃんの髪をゆっくりと耳に掛けて、そのまま耳を触ってると笑われた

『何の心配してるの？』

「Aちゃんが逃げないか心配してんの」