最後の恋 (ページ16)

今日:13 hit、昨日:10 hit、合計:163,358 hit

通い合う想いページ16

-2 months later-

羽田空港に着いた瞬間に改めて思う

自分はどんなに恵まれた環境で育ったのだろうかと

覚悟を持って行った初めての海外派遣は、最初の1週間でこれまで築いてきた自信を打ち砕いた

手術室で勤務して、スペシャリストとしてそれなりの自信を持っていたのに、あんな戦場みたいなキャンプ地では全く意味をなさなくて

命を救うつもりで行ったのに、毎日自分の命を守ることに必死だった

1週間で自信を失って、正直すぐに『帰りたい』と思った

でも、そんな選択肢はあの場ではできなくて、毎日動かなくなった我が子を抱えながら、何十キロと続く道を歩いてくる母親を目の前にすると体は動いた

毎日のように英語で怒鳴られた

最初は歯を食いしばってその言葉に耐えていたけど、3日間も経てば反論するようになった

病棟看護師は〈白衣の天使〉と評されるぐらい優しいのかもしれない

だけど、残念ながらわたしはオペ室看護師で時には医者相手にだって『出来ないものはできません！』と啖呵切ったりしていた

だから「オペ看は怖い」って研修医に言われるんだろうなぁと初めて自覚した

親に会いたいとか、美味しい日本食が食べたいとか、いろいろ欲望はあるけど、帰国の報告に病院に行かなくてはいけない

午前中とは言え、オペ室の廊下には誰もいなくて、オペ室特有の妙な静けさが漂っている

廊下に人がいないのは当たり前

みんな、それぞれのオペについて部屋の中に入っているからだ

真っすぐに師長室に向かって、数回ノックする

師長「はい、どうぞ」

『おはようございます、今帰ってきました』

師長「あぁ、Aさん！

良かった、思ってたより元気そうだわ」

『もっと痩せてると思ってました？』

師長「過酷な現場で食べてないんじゃないかと皆で心配してたんですよ」

報告のレポートを後日渡すように言われて、師長さんに促されてオペ室のエントランスに入る

ここには大きなホワイトボードがあって、どの部屋でどの科のオペをやる予定になっているのかを把握できるようになっている。

『今日はオペが多いんですね』

ホワイトボードに貼られている紙が所狭しと貼ってあるから、今日は忙しい方なんだろう

師長「昨日は比較的少なかったんだけど、今日はね。

三浦くん！ Aさんが帰って来たのよ」

ホワイトボードの前に立っていた背の高いメガネを掛けた男性が振り返る