悪の華【黒執事】 (ページ6)

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その当主、奪取ページ6

「A、3日後は予定を空けておいてね」

『3日後？』

図書室でアフタヌーンティーを飲んでいると、ロンドンから戻ったばかりのお母様が入って来られる

「あれだけ言っておいたのに、もう忘れたの？」

呆れたように大袈裟なため息を目の前で吐いてから、お母様は「3日後は6月4日よ」と告げた

『いいえ、忘れてなどいません』

「ロイも選手に選ばれているし、あなたの婚約者の晴れ姿も見に行かなくてはね」

―6月4日までの婚約者でしょうけど

お母様の言葉にニコッと口角を上げてみせると、わたしが覚えていた事に満足したのか、別の用事が控えていたのか、お母様は図書室から出て行く

ヴィンセントの頭の良さはよくわかってる、

でも、さすがに頭脳を誇る〈紺碧の梟寮〉が常勝チームの〈翡翠の獅子寮〉にたった1ヶ月で勝てるようになるとは考えられない

『……愛のない結婚はしない』

‐4th June‐

女人禁制の名門寄宿学校ウェストン校、

唯一男女平等に門戸が開かれるの伝統のクリケット大会が開かれる6月4日を含む3日間のみ

大食堂で開かれる前夜祭に参加するべく、両親と連れ立ってホールに足を踏み入れれば、すでに多くの学生の家族で賑わっている

「おや、これは珍しい」
「まったく、こんな場所でお目に掛かれるとは」
「社交期(シーズン)でさえ、めったに姿を見かける事はなかったのに」
「よく社交嫌いのお姫様が出て来たものだ」

入って来るな四方から聞こえて来る声に思わずうつむく

だから、社交界は嫌いなのよ

美しいのは見掛けだけ、
お互いがお互いを値踏みして、笑いながら腹の内を探り合う

どうしてそんな場所を好きになれるのか

ｽｯ

「A、久しぶりね」

『フランシス！会えて嬉しいわ』

「フランシスも来ていたのね、ヴィンセントの応援に？」

「え、えぇ、まぁ」

お母様の言葉にフランシスは目を泳がせながら、歯切れの悪い返事をする

しばらく談笑していると前方の教壇に1人の男性が登る

「皆様、伝統ある6月4日のクリケット大会の開会式へようこそ

これより、各寮代表選手の入場です！」

扉の向こうからﾄﾞﾝｯ、ﾄﾞﾝｯ、ﾄﾞﾝｯという地鳴りのような音が聞こえてくる

『……何の音？』

前回大会で他寮に圧倒的な点差で優勝を果たした〈絶対王者〉

「「「翡翠の獅子寮！」」」