悪の華【黒執事】 (ページ26)

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『あら、足りなかった？』

Aとしては十分に愛を示しているつもりだったのだが、ヴィンセントからしてみれば不十分という認識だったのだろうか

「出来れば今、キスぐらいはもらいたい」

『いま？』

「花瓶を贈ったのは誰だったかな？」

それを言われると弱い、

まさかこれが狙いだったとか？

ヴィンセントからの贈り物には裏があるってどうして考えなかったのかしら

Aが思考を逡巡している間にもヴィンセントは片手をAの背中に回している

『目を閉じてくれる？』

「それに従うと思ってないだろう」

どうして自分の夫はこうも意地悪なのだろうか

一見して優しいように見えるのに、実は全てを自分の手の内で掌握しているような男

ここで自分が拒否しても結果は同じ

意を決して彼の頬に手を添えて、唇を重ねる

ﾁｭｯ

軽いリップ音を響かせて離れる唇

「そんなに照れることかな？」

キスしてる間も宣言通りヴィンセントは目を開けたままで、キスをしたのはAの方なのに、ものすごく照れてしまう

ｺﾝｺﾝ

タナカ「お待たせ致しました」

「いいや、待ってない」

『……』

ヴィンセントの言葉を聞きながら、もっと早く窓をノックしてくれたらキスせずに済んだのにとAは内心思った

アフタヌーンティーをしようと言い出したのはヴィンセントなのに、タウンハウスでティーカップを傾けているのはAだけであった

タウンハウスに着くとヴィンセントは書斎に入り、20分ほど出て来なかった

出て来たと思ったら、いくつか手紙を持っており、それをタナカに託したところでようやくAの向かいに腰を下ろした

『大丈夫なの？』

「ああ、問題ないよ」

『そう』

ｺﾎﾟｺﾎﾟ

タナカが部屋を出て行ったので、Aが立ち上がり、ヴィンセントの為にカップに紅茶を注ぐ

タウンハウスに戻った時は急ぎの用があるのかと思っていたが、今のヴィンセントはいつもと同じで優雅に足を組み、カップに口をつけている

表にしろ、裏にしろ、仕事があるのであれば自分のティータイムに付き合ったりはしないと分かっているので、Aはそのまま続けることにした

そこで、ふと今朝の新聞記事を思い出した

『ねえ、〈双子の涙〉て知ってる？』

「宝石だろう、確かクレオパトラが身に着けてたって宝石だった気がするよ」

『それが行方不明になってるって』

「今朝の新聞に載ってたね」