悪の華【黒執事】 (ページ25)

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「石膏の美術品は置いてあるかい？」

Aが花瓶選びに夢中になっているのを確認しながら、ヴィンセントが問う

その瞳は優しく妻を見守る夫のものではなく、妖しく細められた女王の番犬のそれであった

店主「石膏…ですか？」

「そう、例えば……薔薇を模した石膏、とか」

店主「石膏の薔薇ですかぁ、どうだったかな？

ちょっと奥を見て来ます」

「手間を掛けさせて悪いね」

店主「有名な作り手という訳ではないですが、石膏の薔薇と言うとこれぐらいでしょうか？」

テナード店主が手袋をはめて持って来たのは1本の薔薇を模した石膏、色はつけられておらず、白のまま

鉢植えをモチーフにしたのだろう、鉢に植えられた薔薇だった

ヴィンセントは店主からそれを受け取り、ゆっくりと逆さまにする

店主「？？」

「ｸｽｯなるほど

これをもらえるかい？」

店主「それは構いませんが、1点物でもありませんし、そんなに価値があるとは思えませんが」

「これの価値は人によって異なるよ、

万が一、妻の薔薇が咲かなかった時の慰め程度にはなるだろう」

店主「あ～、なるほど！お優しい心遣いですな」

ヴィンセントは薔薇の石膏を店主に渡してAの方へと近づいていく

「決まった？」

『ねぇ？これが良いと思うの』

そう言ってAが指し示したのは、真っ白の陶磁器で出来た華奢なデザインの花瓶

「では、それにしよう。他には？」

『これ1つで十分よ』

「相変わらず君は欲がないね」

ヴィンセントがつまらなさそうに口にする

女の我儘を叶えるのが男の醍醐味の1つなのだが、どうにもAの我儘は少なすぎる

「では、これを。

他に行きたいところは？なければタウンハウスに戻ってアフタヌーンティーをしよう」

『思い付く所はないし、お茶が飲みたいわ』

「決まりだね、

これを包んでもらえるかい？大した荷物にはならないから、今持って帰ろう」

タナカ「かしこまりました、手配をお願いできますか？テナードさん」

店主「もちろんですとも！こちらへどうぞ」

ヴィンセントとAが一足先に馬車に戻って待っている間、執事のタナカが勘定や物の受け取りを済ませる

『ありがとう、ヴィンセント

絶対に綺麗な薔薇を咲かせるわ』

「期待してるよ、

出来れば薔薇にばかり愛情を注ぐのではなく、それ以上のものを俺に向けてもらいたいな」