悪の華【黒執事】 (ページ12)

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朝から屋敷が騒がしい事が憂鬱に拍車をかけていく

きっと他のﾃﾞﾋﾞｭﾀﾝﾄたちはきっと気分が高揚して、ｷﾗｷﾗしているんだろうけれど、わたしはとてもそんな気分にはなれない

ヴィンセントがわたしの説得に成功したと知って、父は手放しで喜んでいて、母は朝から着飾られていくわたしを見て満足そうに微笑んでいる

『婚約者がいるのに社交界デビューする必要があるの？』

「その話はもう終わったのよ、A」

きつ過ぎる程のコルセットを締められながら言う皮肉も、今の母には可愛い我儘に聞こえるらしく、ニコニコとご機嫌よろしく姿見に移るわたしにネックレスを見立てている

ｺﾝｺﾝ
『うっ……』

どうぞと言いたいけれど、息を吸ったタイミングで更にコルセットの紐を締められて言葉を出せない

「何かしら？」

わたしの代わりに母が片手間に返事をする

ｽｯと扉が開いたかと思うと1人のメイドが部屋に入って来る

「ファントムハイヴ伯爵がお着きになりました」

「あら！もうそんな時間なの？」

『…っみんな、準備するのが…早いのね』

「お通しする？」

『コルセット姿を見せるの？冗談でしょ、お母様？』

「ふふっ、もう少しで支度が整うから、お待ち頂いて？」

「かしこまりました」

ﾊﾟﾀﾝｯ

シルクで仕立てられたドレスを纏って、髪を結い上げていく

「ネックレスはシンプルなものが良いわね」

母が選んだネックレスとピアスを最後に着けて薄いベールを被る

完成した自分のﾃﾞﾋﾞｭﾀﾝﾄ姿を鏡で見ると、何とも言えない感情に包まれた

イギリス中の女子の憧れで、自分は違うと言い続けてきたけれど、実は心の奥底では憧れを抱いていたのだと実感する

「感想は？」

『…ありがとう、お母様』

「ふふっ伯爵を呼んでくるわ」

母が部屋を出てから暫くすると扉をノックする音がする

ｺﾝｺﾝｯ
「入っても？」

『どうぞ』

扉が開いて彼の姿が見えるまでの間に2回ゆっくりと深呼吸をする

『……』

何と話し掛けるべきか分からなくて、ヴィンセントを見てニコッと微笑むのが精一杯で

「何と表現するべきかな」

『…？』

「きっと女神が目に見えるなら、俺の前にいる女性がそうなんだろうと思うよ」

『まぁ…、お上手ね』

「綺麗という言葉ではとても足りないな」

『ドレスをありがとう、ヴィンセント』

「これから夜道には気をつけるよ」

『…どういう事？』

「嫉妬した男に刺されそうだ」