How to save a life 2 (ページ1)

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Episode7: 生と死ページ1

人は生まれた瞬間から一歩ずつ死に近づいている。
自分でその死の瞬間を選べる人間はごく僅かだ。

大抵の場合は、死の瞬間は予測不可能で自分では逃れられないものなのだ。

ー翔陽大学附属北部病院 ICU ー

『おはようございます、井上先生』

胸部心臓外科の術後回診のためにICUを訪れると、個室の方を見つめながら、神妙な顔で佇んでいる循環器内科の井上先生を見かけた。

思わず回診から外れて、井上先生に声を掛けるけど返答はない。

『井上先生？』

「！…鬼頭先生か。すまない、考え事をして気を取られていたよ。」

二度目の呼びかけに反応した井上先生の顔は、悩んでいるような、何かを待っているかのような複雑な表情だった。

『あの患者さんに何かあるんですか？』

井上先生が一心に見つめていた先にいるのは、まだ高校生ぐらいの男の子だ。頭部外傷なにだろう頭は包帯で保護され、人工呼吸器に繋がっている。

その容体から察するに〈循環器内科〉の井上先生の領域では無さそうなのに…

『！まさかあの子は…』

あの子…ドナー候補者なの？あの若さで脳死に？

「お察しに通りだよ。昨日の夜に 1回目の脳死判定が済んだ。2回目は今日の午前中に実施される予定だ。上手くいけば…」

『あの子の血液型から、橘先生の息子さんに適合してるんですね？』

「そうだ。」

だから、井上先生は待ってるんだ。脳死判定は脳外科の医師が行う。
うちの通例から考えれば、部長である西条先生が脳死判定を行うのだろう。

今ここで白衣を着ているわたし達はあの家族にとって医者に見えているのだろうか。

わたしには死神が今か今かと命が終わるのを待っているようにしか思えないー

「2回目の脳死判定が済んだら、すぐに移植ネットワークから順位の連絡が来る。そっち(心臓外科)にも連絡がいくはずだ。」

脳死が確定し、家族が臓器提供を希望すれば移植ネットワークが動き出す。
移植ネットワークのみが持っているリストからドナーと血液型が適合し、トップの待機者に連絡がいく。

レシピエントに選定される為にはいくつかの条件が揃わなければならない。

待機日数が長いこと

拡張型心筋症の症状が重症であること

感染症を発症していないこと

レシピエントはドナーの距離

ドナーから取り出された心臓は4時間しか保たない。これは全ての臓器の中でも最短だ。
つまり4時間以内に心臓を移植できる距離にレシピエントがいる事が条件になるのだ。